あぁまた浮気だ。
そう思った
今までも何度か目にした事はある。その度に自分を抑えていた、あれは銀時じゃない、浮気なんかする筈ない。
だけどもう無理みたいだ。

私の心は思っていたより荒んでしまっていて、今だってほら、銀時が他の女の子と手を絡ませてキスをしているそれを見ても胸は痛まない。いや、痛まないんじゃない。慣れてしまっているのか、銀時への気持ちが冷めてしまっているのか、…いいや、ただの強がりだ。
こんな状況で 自分が銀時の彼女だと豪語する自信は無い、銀時に愛されてる自信だって。

銀時の浮気を受け入れる大きな器など、私は持ち合わせていないのだ。最初にも言ったが、本当にもう無理みたいだ。どうして私ばかりこんなに苦しい思いをしなきゃなんないの。そんな考えしか浮かばない。ねぇ、こんなの望んでないよ、銀時。

何度も自分は馬鹿だと思った。色んな人にも言われた。…うん、その通りだ。銀時の浮気を見て見ぬフリをして、現実から目を背けて。銀時と一緒に居る事が出来るなら、銀時が戻って来てくれるなら、何だって良いか。最初はそう思ってた。でも支配欲というのは不思議なもので、いざ自分が浮気の現場を目にすると 、沸々とお腹の底が疼いた。汚い感情しか生まれなくて、初めてその感情が生まれた時は心底戸惑った覚えがある。そこで気付くべきだったのだ。自分にも人間として当たり前の感情があるということ。しかし気付いてしまった今、もう銀時と一緒には居られない。
ごめん。ごめんね、銀時。


「…なにこのメール」


不機嫌丸出しの顔で、銀時が家を尋ねて来たのは夕方のこと。画面には昼間 私が勇気を出して送った文面が表示されていた。“最後にお話しよう”
もちろん銀時だって、このメールの意図には気付いているだろう。目を少し伏せて唇を噛み締めていた。
銀時に直接会うと、思わず決心が揺らぎそうになる。でもきっとそれは互いの為には良くない。このままずるずると続いていって、私達2人に幸せな未来があるとは思えないのだ。


「内容の通りだよ、終わりにしよう」
「…嫌だ」
「銀時」
「何でだよ。俺の浮気が原因か?それなら、」
「違う。銀時」


私の心が、どんどん汚くなっていくのが苦しいの。
そう告げると、銀時はハッと目を見開いてすぐに顔を歪ませた。やっぱ俺のせいじゃんよ…と小さく呟いて、ソファに深くもたれ込む。自分の両手を 白くなるまで固く握りしめて、大きな身体を微かに震わせて。


「…今まで、俺の浮気 放ってただろ。何で、今?」
「今だからだよ。今しかないと、思ったから」
「っ、それでも…嫌だ…」


腕を引かれ背中に手を回され、首筋に冷たい雫が何度も落ちた。銀時が、泣いてる。そう理解した瞬間 私の目にも薄く水の膜が広がっていくのがわかった。「いやだ、ごめん」そう呟き続ける銀時はなんだか子供みたいで。「ちゃんと誠意見せる、お前に信じてもらえるように。だから」嗚咽混じりに更にきつく抱きしめてくる銀時の背に、やっと私も腕を回した。
あんなに決めていたのに。決意というものはこんなにも脆いものなのか。それとも心のどこかで 銀時を信じたい気持ちの方が勝ってしまったのか。
どちらにせよ、私にはやっぱり銀時が必要みたいだ。例えそれが一方的な愛だとしても、私は彼を信じ抜いてしまうのだろう。

ああどうか、これから私達2人が 本当の幸せを掴んでいけますように。そう願いながら涙で濡れたお互いの頬を擦り合わせた。








20130121
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テーマ「人外ファンタジー」
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