以前坂田サンに、好みのタイプを問われたことがある。私の解答はただ1つ、ねーよンなもん だった。強いて言うなら、坂田サンとは違うタイプの人 と言えば、その大きな体が勢い良く地面にめり込んだのを覚えている。男の人はどうしてこうも好みのタイプを聞きたがるのか。聞いたところで彼らは性格を変えてくれるのだろうか。甚だ疑問である。


「ねーねー、だんごちゃんの好みのタイプってさー、俺みたいな奴っしょ?そうっしょ?」
「甚だ疑問である」
「え?なんか言った?あ、今度さー2人で映画行かね?行きたいっしょ?」
「甚だ疑問である」


先ほどからうっとうしいこの金髪チョビ髭のチャラ男は、私のバイト先である甘味屋の常連さん。なんつーか存在自体が甚だ疑問である。彼の脳内では、私が彼の事を好いているという都合の良い妄想が繰り広げられている。まあ適当に受け流せば諦めてくれる程度のモブキャラなので、お客さんとはいえスルーさせて頂く。


「だんごちゃんは相変わらず冷てーなー。あ、そうだコレ」
「?」
「だんごちゃんは俺と2人きりだと緊張するみたいだし、映画の無料チケットあげるよ。俺とはもう少し段階を踏んでから行こうなっ」


ウインクをしながらチケットを2枚手渡される。寒気がした。しかし、お客相手なので頂けませんと突き返すと、「俺のプラトニックな愛の証なんだ…受け取ってくれ」と手を握られながら無理矢理渡された。鳥肌が立った。また来るよ〜 と去っていくチャラ男サンにお辞儀をしつつ、頂いたチケットをちらりと見る。あ、これ面白いって有名なやつ。


「…よーだんごー」


チケットに気をとられていると、後ろから伸びた声が聞こえた。坂田なんとかサンだ。そういやこの人も常連さんだった。いらっしゃいませー、とお辞儀をして席に案内すると 犬みたいに尻尾を振って着いて来るいつもとは違って、目線をさ迷わせたり椅子に何度も座り直したりと挙動不審な行動をとり始めた。


「…坂田サン便所ならあっち」
「違ェよ!てか女の子が便所とか言うなし」
「じゃあなにもじもじしてんの。便意を我慢しているようにしか見えないけど」
「だんごちゃんお下品!!」


不潔だわーっと大袈裟なリアクションをとる坂田サンにイラッときて、無意識の内に殴っていた。他のお客さんはこの光景に慣れているそうで、和んだ様子で「今日もだんごちゃんは絶好調だねえ…」と言っている。もちろん絶好調だ。

その後坂田サンはみたらし団子を3本注文し、ぺろっと平らげ至福の笑みを浮かべていた。根っからのスイーツ系男子だな。勘定を済ませ出口まで見送りに行くと、坂田サンは再び挙動不審な行動をとり始めた。ホントに今日はどうしたこの人。


「…だんごさー、さっきの男って 彼氏?」
「は?」
「あ、いや…」


さっきの男、あぁ、常連客のチャラ男さんか。名前は確か…ええと、興味が無いから覚えていないな。なんて名前だったっけ。
名前が浮かばずうーんうーんと悩んでいるのを、何を勘違いしたのか坂田サンは慌てて「答えたくないなら良いんだけどよ…」と言葉を濁した。いや別に答える程の関係でもねーけどな。


「…彼氏じゃないよ」
「お?…え?マジで」
「マジで」
「え、じゃあアイツと映画行かねーんだな?!」
「どっから見てたアンタ」
「映画のチケットは余る?!」
「まあそうなるね」
「よっしゃ!じゃあ行くか!」
「厚かましいわ!友達と行くっつの」
「でもこれカップル専用だぜ?」
「な んだと…?!」


急いでチャラ男さんに貰ったチケットを見ると、なるほどそこには『カップル専用無料チケット』と小さく端に書いてあった。なんてこった。あいにく恋人なんていない。気になる映画なのに、カップル専用ならば行けないではないか。

チラリと坂田サンを覗き見ると、勝ち誇ったかのようにニヤニヤしながら両腕を組んで私を見下ろしていた。「だんごこの映画気になるんだろ〜。どーしてもって言うなら、一緒に行ってやっても良いぜー」と。なんて上から目線な奴なんだ。むかつく。
腹は立つが映画は見たい。渋々ながら、じゃあ一緒に行こうと誘うと 私から誘われるのは意外だったのか目を見開いて勢い良く抱きしめてきた。


「可愛い!むくれながら頼んでくるだんごハンパなく可愛い!」
「きっ…きもい!離せ!」


誘うんじゃなかった。





20120106
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テーマ「人外ファンタジー」
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