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夢見る(ラプソディ番外)


「名前」

土方さんが手招きをする。
土方さんの元へ走る。
土方さんと当たり前のように手を繋ぐ。
ついこの間までは、こんな行動有り得なかったのに。今、私はとても幸せだ。繋いだ手を確かめるように指を絡めれば、それに応えるかのように土方さんもまた手に力を込めた。

「今日はお仕事長引きそうですか?」
「ん?あーそうかも。お前こそ仕事は?」
「今日はお休みなんです」
「そ」

じゃあ屯所来るか?と笑う土方さんの笑顔はいつもの不敵なそれだ。恐らく私に書類整理を手伝わせるつもりだろう。私はパシリじゃないですよ、と軽く握った拳で土方さんの腕をコツンとやれば、「そうだな、パシリじゃあねえな。」と幸せそうに笑い返してくれた。そう、私は土方さんの恋人なのだ。






「…はっ」

午前8時25分。私は慌てて飛び起きた。何て夢だ、土方さんと私が、こ、こここ恋人だなんて。おこがましいことこの上ない。昨日の夜みた恋愛モノのドラマの影響か。それとも、夢には欲望が表れるというし、ついに妄想が夢にまで出現してしまったのか。
頭を抱えて羞恥に悶えていると、スヌーズ設定された目覚まし時計がまた時間を知らせた。時計の表す時間を見て更に慌てる。しまった。仕事の下準備の為に、今日は早めに出勤しなければいけないのに。寝坊だ。
大急ぎで顔を洗い歯磨きをし荷物を持って外に出た。仕事場まで走ればギリギリ間に合う、さあ急げ。
角を曲がって数メートル先にぼんやりと黒い影が見えた。余りにも慌てて出て来たせいで、コンタクトをつけるのを忘れた私の目には とりあえずそこに人がいる、ということしかわからない。速度を緩めず走っていると、先ほどの人影が目の前に立ちはだかった。

「よ」

“よ”と言われても。近くで顔を見ないと今の私には誰かが分からないので、急いで鞄の中に常備している眼鏡を取り出し装着した。
…なんと夢にまで見た土方さんであった。思わず、夢とはいえ不埒な妄想をしてしまった自分を恥じて土下座したくなった。

「お、おはようございます。朝早くからご苦労さまです」
「…おー…お前、仕事か?」
「はい」
「…その格好で?」

土方さんに言われて、思わず自分の姿を見下ろす。変な格好をしているだろうか。パッと目に入ったのは、普段私が部屋で着ている寝巻き。ねま…き…。
土方さんに指摘されるまで気付かないとは。今の私は、寝巻きに少しヒールのあるブーツという、なんとも個性的すぎる格好をしていた。なんだこれ、コントか。

「…ああああああ!!」
「クッ、ウケ狙いじゃねぇのかよ」
「ああああああ」
「ちょ、うるさい。何だよ着替えてこれば良いだけじゃねェか」
「ち、遅刻コノママダト私オコラレル!」
「なんでカタコト。オラ落ち着け。んで仕事仲間に連絡入れとけ」

ぽんぽん頭を撫でられて、やっと我にかえった私は 慌てて仕事仲間に電話をした。かくかくしかじか…事情を説明したら大笑いをされた。ヒーヒー言ってむせている。電話口から漏れる仕事仲間の笑い声に、土方さんも笑いを誘われたのか喉を鳴らして笑っていた。このやろう。

遅刻についてはなんのお咎めも無いようで、「ちゃんと着替えて気をつけて来なー」と最終的には優しい仕事仲間であった。
電話が終わるのを待ってくれていた土方さんに向き直って、お礼を言うと、俺は別に何もしてねェよ。とタバコの煙を顔に吹き掛けられた。なんか今日の土方さんひどい。

「じゃあ、着替えてくることにします。なんかすいませんでした」
「おー。面白ェもん見れたから全然いいわ。じゃあな」

呆気なく去ろうとする土方さんの後ろ姿を見て、なぜか今朝見た夢がフラッシュバックした。恋人同士なら、今みたいにすぐに去ったりしないのだろうか、少しでも名残惜し気にしてくれるのだろうか。ぼやんとその場に立ち尽くして、遠ざかる土方さんの後ろ姿を眺めていると、視線を感じたのか土方さんが突然足を止め振り返り、そして目が合った。

「…眼鏡あんま人前でかけんなよー」

両手をポケットに突っ込んだまま首をこちらに向ける土方さんに、少しときめきながら どうしてですかー と問い掛けると、少し口を閉ざし、また歩き出して片手をひらひらさせながらこう言った。

「男ってけっこうギャップに萌えるからなー」





20121208

ラプソディ8話以降のお話ということで。

匿名希望様
リクエストに沿えなくて
申し訳ありません(´;ω;`)

やっぱり、ヒロインとくっついた後の番外は、ラプソディが完結してから書こうと思っているので…
というわけで ヒロインの夢の中で
少しだけくっつけときました。←

リクエストありがとうございました!

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