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其れを愛と云ふ


トシさんと付き合い始めて、今年で5年目になる。一応だが同棲もしていた。屯所から距離もそこまで無いこのマンションの1室に、週に1回か2回、彼の仕事が一段落した時だけトシさんは帰って来ていた。最近は、週に1回家に帰って来れば良い方。月に1、2回帰るかも怪しい。まあそれでも、毎日会えないからと言ってグダグダ文句を言う程、私も彼の仕事に理解が無い訳では無い。忙しくなくなれば、きっと帰ってくるだろう。そう思って、同棲当初は毎日2人分の晩御飯を作っていたが 今となっては当然のようにお一人様分の量である。会話相手はテレビ。ろんりーである。
しかし私がこんな風に割と余裕を持っていられるのは、週に1回あるか無いかのトシさんからの電話。「今週も帰れそうに無い」とか、業務連絡かよ と突っ込みたくなる内容ばかりだが、まだ私の存在を頭に置いていてくれていると安心させるには十分な行動だ。

『悪ィ、今週も…』
「はい、わかってますよー。ちゃんとご飯食べてますか?」
『おぉ、食ってる食ってる』
「マヨネーズかけ過ぎはダメですよ」
『バッカお前マヨネーズかけねーとだな…』
「ふふ、はいはい、今お仕事中ですか?」
『あァ、総悟のぶんの書類整理』
「うわあ、お疲れ様トシさん」

こんな感じでいつも似たような内容で始まり似たような内容で終わる。色気やらムードやら、私達の会話にはそんなもの滅多に無い。ただぐだぐだと、実の無い話を続けては自然と会話が終わりそこで週一の特別な時間は終了した。今日もきっとそんな感じなんだろうな、と、光る携帯電話を手に取り耳に当てた、のだが。
今晩のトシさんは、心なしか少し声色がか弱い。

「こんばんはトシさん」
『…おー』
「少し、お疲れですね、平気ですか?」
『…おう、』
「…」

仕事で嫌な事でもあったのだろう。なんだかそんな気がする。何があったのか聞いても、この人の事だから“何でもない”としか言わないのだろう。
ああ、こんな時に傍に居てあげれたら。抱きしめる事ができたら。少しもどかしい。

「…トシさん、次に家に帰った時は何が食べたい?」
『…あ?』
「そうねぇ、あ、今度は特別に、自家製マヨネーズをご馳走しますね」
『…ほー』
「ね?だから、早く帰って来てくださいね」
『…だな。なあ、名前』

子供のように、少し甘えた声を出すトシさん。彼が弱った時にだけ見せる、可愛らしい一面だ。いつぶりだろうか、こんな声を聞いたのは。胸の奥が きゅうっとした。思わず携帯を持つ手に力が入る。

「…はい?」
『…俺ァな、お前と電話で、こーやってぐだぐだぐだぐだ話をするのが好きだ』
「ええ、私もです」
『…結婚すっか』
「…え?」

いきなりのことで頭が真っ白になる。いま、なんて?
放心状態で返事をせずにいると、受話器越しにトシさんが大音量で私の名を呼んだことで我に帰った。

『オイコラ、返事しろ返事』
「と、トシさん、じょ、冗談なんかじゃないよね?わた、私なんかでいいの?」
『馬鹿。名前が良いんだよ』

2度も言わせンな、馬鹿。
と語尾が近付くにつれて小さくなるトシさんの声に、今までの中で1番、いますぐにでも会いたいという衝動に駆られる。
“お前は屯所に越してこいな。マンションは暇な時2人で過ごす為にとりあえず残しとこう”と話を進めるトシさんのそれは、まるで前々から計画していたかのようで、ますます私の気持ちは高ぶり、静かに嬉し涙が頬をつたっていた。

『もしもーし名前さーん?こちら沖田総悟ーただいま土方さん耳まで真っ赤でさァープスーヘタレープススー』
『ふざけんな総悟コラァァァァ盗み聞きとか趣味悪ィぞてめっこら携帯返しやがれ!!』
『“名前が良いんだよ”………プークスクス…こりゃ傑作だぜィおーいお前らー土方さんがやっとプロポーズしたみたいですぜィ!』
『総悟テメコラふざけんなおいこら待て止めろマジで止めろ頼むから』
『嫌でィ』
『ふざけろクソガキ!』
『あ、土方さん土方さん、たぶん名前さん泣いてやすぜ。鼻啜ってる音がしやした。じゃ』


ブツ と 音を立てて通話が切れる。
この後、10分もしないうちにトシさんが家まで走って来た。私が泣いていた、と総悟くんから聞いて、少し心配だったらしい。仕事をサボってまで来てくれていた。やっぱり、電話じゃなくて直接言やよかった。息を切らせて微笑みながら、前々から用意していたらしい指輪を私の左の薬指に嵌めた。サイズは少し大きくて、またトシさんらしくて笑った。トシさんは最後まで格好付かねェな、と苦笑してたけれど、彼のなにもかもが愛おしかった。









20121106

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