家に帰ると珍しく母親が満面の笑みで私を迎え入れた。絶対何かあると警戒して我が家のリビングへと踏み込むと真っ白な頭の男性がソファーでくつろぎながらクッキーを貪っている。他人の家のお菓子を我が物顔でバクバクとその口へ運ぶ男性の神経は図太いようだ。
私の母親は慣れた様子で新しいお菓子の箱をその男性に与えた。瞬間、水を得た魚のように男性は輝いた。


「かかか母さんこの人はだれ」
「あ、お帰りなさいみたらしさん。僕、アレン・ウォーカーです。これからよろしくお願いしますね」
「は」


これからってどういう事だ、と視線を母に向けると 母の目は目の前のこの男性に釘付けだった。目はハートである。おいこらババアあんた年下趣味か父さんに言ってやる。
母の腕を取り無理矢理意識をこちらに向かせると、ようやく私の存在に気付いたかのように「ああだんごお帰り」と言ってみせた。さっきも言ったそれ。もう忘れたか母さん。
白髪の男性を指差し、どういう事?と説明を求めると 渋々といった感じで母は説明を始めた。


「10年前、お隣りに住んでた2つ年上のアレンくんよ。あんた一緒に遊んでたじゃない。今まで留学してたらしいんだけど、大学は日本のとこに通う事にしたらしくって帰ってきたの」
「それで、今度はすぐそこのアパートに1人暮らしする事になったので、挨拶に伺ったんです。」


久しぶり、みたらしさん
と満面の笑みで私に近付き、僕の事覚えてますかー?と小首を傾げるアレンさん。
…正直覚えていない。
しかし本当の事など言えるはずもなく、「あ、あぁ!あのアレンさんね!はい勿論!お久しぶりです!」と取り繕っておいた。ご近所に住んでいるとはいえ、そうそう関わったりはしないだろう。この位の嘘をついていても彼にはバレたりしまい。
とりあえず握手ーとアレンさんと軽く握手を交わしていると、母親がアレンさんに晩御飯を一緒に食べないかとお誘いを入れた。良いんですか!と目を輝かせるアレンさんに普段の3割増しの笑顔で、勿論よ〜と母は答え、じゃあ買い出しに行ってくるわね。と家から出て行った。
…2人きりだ。


「…じ、じゃあ、私は自分の部屋に戻るので、適当にテレビでも見ていてくださいね」
「だんご」


…ん?
よびすて?しかも名前?
さっきまで名字にさん付けで呼ばれていたので不思議に思い振り向くと、アレンさんに勢い良くソファーに押し倒された。


「?!な、?!」
「あははは!懐かしいですねえ、だんごのその顔!いやあ、それにしても大人っぽくなりましたね。身長以外は。今18歳だっけ?」
「へぁっ?はっ?!」
「はは、あぁそうだ君、僕の事忘れてるでしょう。
わかりやすいよなー目が泳ぎすぎなんですよ。あはは、そこは変わってませんね」


私をソファーに押さえつけながらマシンガントークで喋り続ける彼の顔を見て、ぼんやりしていた記憶が少しずつ蘇る。
こ、こいつ……
あのアレンだ…私のスカートめくっていじわるばかりする、アレンだ。


「あ…れん…っ」
「やっと思い出しましたか、遅いですよこれだから馬鹿は」
「なっ」
「まあそんな馬鹿に会いにわざわざ日本に帰って来たんだ。これからしっかり僕好みの女に仕立て上げてやりますよ」


そう言い、アレンは私を押さえる両手に力を入れて顔を近付けてきた。こんな最悪な状況で、私のファーストキスは奪われたのだった。







20120929






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