逃げる余地を残すように、ゆっくりと近づいてくる綺麗な顔。
嫌だとは思わなかった。けれどこの口付けを許したら、後は済し崩しになるだけだと何となく解っていたから、私は堪らず声を出した。
「……四木、」
喉からは吐息のような音が落ちる。四木は私の声に一瞬だけ動きを止め、薄く開いた目蓋の下で鋭い瞳を光らせたけれど、結局何も言わずにそのまま私の口を塞いだ。
彼の唇は少し薄く、そしてとても熱かった。唇を食むだけのキスだというのに、なんだか目蓋の裏がちかちかする。至近距離で香る嗅ぎ慣れたコロンと汗の混じった匂いが脳に靄をかけていくようだった。
「、ン、…ん…っ」
四木は、そんな私の反応にすっと目を細めてから、一度離した唇をもう一度触れ合わせた。そのままゆっくりと押し倒された背中でスプリングが軋むのを感じる。
そうして徐々に深くなるキスに、そっと差し出した舌はすぐに絡め取られた。喉の奥から勝手に漏れ出す声はやけに甘ったるかったし、初めて感じる彼の舌は想像以上に苦かった。
「…やっぱり煙草はダメね」
「……クセになると思うが?」
首を伝って滑り降りた彼の唇が鎖骨に吸い付き、さらにその下へと進んでいく。同時に捲り上げられたスカートと、太腿に感じる四木の少し冷たい掌にふるりと背筋が震えた。
「、ん…っ」
「っふ、……悦い顔だ」
ちらりと私の顔を確認して、ニヒルな笑みを浮かべる口元。彼の熱く湿った吐息を肌で感じる度に、身体の中心がじくりと熱を上げていく。
これからこの男に、自分の内側を暴かれて、侵入されるのだと思うと堪らない。彼に押し倒され、好きに肌をなぞられているという事実がどうにも倒錯的だった。
「…、ねえ…四木、」
「……なんだ」
四木の切れ長の瞳は相変わらず冷静なようでいて、その奥にはぞくっするような激しい何かを潜ませていた。無意識だろう、ぺろりと自分の唇を舐めるその姿はまるで獣のようで。
腕を回した彼の首筋があまりにも男らしかったから、私は妙に幸せな気分になった。
「…なんだか私、初めてみたいにドキドキしてる」
「……はっ、そりゃ挑発か?」
曖昧であやふやで脆くて
(感情線の融解)
企画「曰はく、」様提出