しあわせのかたち-2/4-






***


想像通り、上司の得意先周りが終われば直帰していいと指示を出されライトニングはなんだか軽やかな気持ちで帰路へとつく。
上司や同僚から、残業を嫌がるわけではないが早く帰っていいと言われると本当に早く帰ることについて揶揄の言葉がないわけではない―明かしたつもりはなかったが、年下の恋人と一緒に暮らしていることを知っている人間も少なくはなかったし。
だが誰に何を言われようともライトニングの足は止まることはない。誰のどんな言葉に揶揄されようとも、今自分の中にある感情はたったひとつ…フリオニールと一緒にいたい、ただそれだけ。
普段は他人に弱みを見せたりすることを厭うライトニングではあったが、フリオニールは違う。そんな強がりも見抜いて自分を受け止めようとしてくれる―年下だし頼りないと思うこともないとは言わない、だが…それでも一生懸命、自分の支えになろうとしてくれるその健気な姿がライトニングの心を惹き付けて止まない。
出会った時は想像さえしていなかった。ここまでフリオニールに心を奪われるなんてことは。
気付けば買い物かごいっぱいにフリオニールの好物を詰め込んで、軽い足取りで家路を急ぐ―とは言え前に料理を作ったときには鍋を焦がしてしまったのだが、今日はそんな失敗はしない。そんなことを考えながら腕時計に目をやる―今から帰って準備をすれば、フリオニールが帰る頃には食事の支度も済ませられるだろう。

「全く、私らしくもない」

自嘲するかのように漏らした呟き―だが、フリオニールと一緒に生活することで変わって行く自分が嫌いではなかった。
両親を失い、まだ幼い妹を養う為にと学業の傍らひたすらに働き続けた。全ての楽しみも、幸せも置き去りにしたまま。
もしもフリオニールと出会わなければ、フリオニールが側にいなければ、自分の人生はとてもつまらないものになっていたのだろうと分かるから―
穏やかで、それでいてとても幸せな毎日を自分に与えてくれるフリオニールの存在に心の中で最大限に感謝し、ライトニングはただひたすらに家路を急いでいた。


***


アルバイトを終えたフリオニールは上機嫌で自転車を走らせる―今日は家に帰ればライトニングが待っていると分かっているからこそ、表情には零れ落ちそうなほどの幸せが溢れている。
無意識のうちに鼻歌まで出てきてしまうほどに上機嫌なのは、ライトニングとゆっくり一緒に過ごせるのが随分と久しぶりだから。
ここ最近の自分はレポートや就職活動に追われていたし、ライトニングもどうやら仕事の繁忙期であったらしく休日返上で仕事をしていたのを知っている。
ライトニングだってゆっくりしたいのだろうに、そんなときに自分と過ごしたいと言ってくれるライトニングの気持ちがとても嬉しく、そして―フリオニールに幸せを与える。
幼い頃に両親と死別したフリオニールにはもう、血を分けた家族はいない。
育ててくれた義理の家族に感謝はしているが、それでもやはりどこか胸の中にぽっかりと穴が空いたように留まり続けていた孤独感。
それを感じなくなったのは、ライトニングと出会ってからだった―そんな、気がする。
依存していると言われたらきっと否定はできない。だが、今の自分にはライトニングが絶対に必要だと分かるから―だから、離れるつもりなど毛頭ないし、ほんの短い時間でも一緒にいたいと感じられる―
マンションの駐輪場に自転車を止めると、エントランスホールに駆け込みエレベーターが来るのが待ちきれないというように階段を駆け上がった。ライトニングが待つ部屋を目指して。


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