Hands-3/3-






「……どうした?」
「ど、どうもしない」

結局何事もなかったかのようにライトニングから視線を反らすことしか出来ないフリオニール。この調子では手を握るなんてのは夢のまた夢なのかもしれない……そんなことを考えながら、視線だけをちらりとライトニングの方へと戻した。

「……そ、そろそろ戻らないか?もうじき、先行偵察に行ってる奴等も帰って来るだろうし」
「ああ、そうだな。あまり長い時間仲間達から離れていて何か言われるのも良くない」

そんなことを言いながら立ち上がり、ここに来るまでの間に辿った道を逆向きに歩き始めた――しかしそこで感じる気配に、ふたりは足を止めて顔を見合わせあう。
先刻までそんな話をしていたのだから分かってはいるのだが――秩序の聖域に程近いこんな場所にまでイミテーションが現れるとは正直考えてもいなかった。
それに、ふたりも歴戦の戦士だ。気配だけで、ある程度は相手の強さも分かろうというもの。
少なくともふたりだけで相手できるかといえば――厳しいだろう、と瞬時に判断がつく。だが、だからと言って仲間の元に戻ってそれで仲間を危険に晒すのも――そんな考えからなのだろうか、ライトニングが武器を抜いたのがフリオニールの目の端に映った。
ライトニングは戦うつもりでいるのかもしれない。だが――フリオニールの中からは消えない躊躇い。しかし、実際に目の前に現れたイミテーションの姿を見て、フリオニールの躊躇いはひとつの決心に変わった。
右手に武器を持ったままのライトニングに視線を送ると、フリオニールは空いたままになっているライトニングの左手を何の迷いもなくしっかりと掴んだ。

「……っ、フリオニール!」
「今は逃げよう。俺達ふたりだけでどうにかなる相手じゃない」
「だが……」
「仲間に危険が迫るかもしれないって考えてる君の気持ちは俺にだってよく分かってる。だから、仲間のところまでたどり着かせなければいいんだ」

早口でまくし立てるように告げ、フリオニールはライトニングの手を引いて走り始めた。向かう先は森の中――木々に隠れ、時に茂みを突っ切りながらイミテーションの追撃を振り切るようにふたりは走り続ける。
イミテーションの気配を振り切りながら延々と走り続けるのは戦っているよりも寧ろ苦行であるように感じられるが、それでも自分たちの身を、そして向かう先にいる仲間達を守るためと言い聞かせながらふたりは必死で走り続けた。

やがて――イミテーションの気配が感じられなくなったところで、フリオニールがゆっくりと速度を落とし始める。それに合わせたのだろうか、ライトニングも僅かにスピードを落として後ろを振り返っていた。

「もう大丈夫そうだな」
「ああ……何とか振り切れてよかった」

そこで目を見合わせて安堵の息を吐くふたり。だが、ふと――走っている間繋ぎ合っていた手に互いに視線を落として……気付いたかのように、揃って「あっ」と声を漏らした。
フリオニールの頬が熱いのは今まで走り続けていたからと言う理由だけではない。慌てたようにその手を振り解こうとして、思いなおしたようにきつくライトニングの手を握り締めた。

「……あのさ、ライト」
「……どうした?」
「ライトが嫌じゃなかったら、その……もう暫く…・・・」

なんだか恥ずかしくてライトニングの顔を見ることが出来ないまま、フリオニールはライトニングの手を握った手に力を込める。それに応えるかのように、ライトニングもきつくフリオニールの手を握り返していた。

「嫌がったりなんてしない。寧ろ……」

そこで言葉を止めたライトニングだったが、僅かに笑みを浮かべるとフリオニールの手を握ったままゆっくりと歩き始めた。

「ライト……」
「仲間のところに戻るまでの間だがな。暫くは私もこうしていたい」

ライトニングの言葉に、フリオニールは花が綻ぶように満面の笑みを浮かべる。
つい先刻まであんなに躊躇していたことがこんなに自然に出来てしまったことが可笑しくもあり、そして――繋ぎ合わせた手から感じるぬくもりが、より強くライトニングの存在を自分の側に繋ぎとめていてくれているように感じられて嬉しくもあり。
穏やかな笑みを浮かべているライトニングはフリオニールのそんな内心を知っているのだろうか?そんな疑問を僅かに頭の中に浮かべながら、手を繋いだままのふたりは仲間達の元に向けて手をしっかりと繋ぎあったまま歩いていくのだった。


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