Hands-1/3-






はじめは夢なんじゃないかと思っていた。
戦士として戦う為に、バラバラの世界から集められた戦士達。その中にいた、戦うことしか知らなかった自分。
こんな世界で見つけた花を大切にしている自分がなんだか恥ずかしくて仲間には隠していたのに、人の目など気にするなと諭してくれた彼女に気付けば心を奪われていた。
それでもこんな世界で、戦う為だけに存在する世界でひとを好きになることはなんだか許されないことであるような気がして、その想いは胸に秘め続けるつもりでいた――はずだったのに。

「おかしいだろう?私達は戦う為だけに喚び集められたはずなのに……気付けばお前に惹かれていたんだ」

彼女の言葉に、自分もそうだと返すのがやっとだった。
うすらぼんやりとした記憶、きっと元いた世界でも誰かを愛したことなんてなかったはずなのに。こんな、箱庭のような世界で巡り合ったひとと想いを通じ合わせたことがまるで奇跡のように、彼には思えていた――

 ***

「フリオニール」

ライトニングはこうして今日も、それが当たり前であるかのようにフリオニールの名を呼ぶ。仲間として共に戦っていたときと何も変わらないその声色の裏に秘められているものを知っているのは……フリオニール、ただひとり。
その意味を知っているからこそ、彼女の声で名前を呼ばれることが無上の喜びであるように感じられてフリオニールの表情は自然と綻んでいた。
仲間達の目を盗んでは一緒に時間を過ごす。することと言えば他愛のない話ばかりだが、それだけでもフリオニールにとってはとても大切でとても幸せな時間であることに変わりはない。
ただ――フリオニールにはひとつ、どうしても出来ないこと……が、あった。

ふと目をやれば、何処かへ行こうなどと言ってティファが気安くユウナの手をとって握り走り出している。ユウナも何の躊躇いもなく、ティファの手を握り返して一緒に走り出していた。
無論、女同士だからこそそうやって気安く手を握り合ったりできるのだろうけれど……自分の隣にいるライトニングの手を握ってみたいと、フリオニールはいつしか考えるようになっていた。
だが、しかし。
自分の1歩前を歩くライトニングに向かって手を伸ばしてはみるものの、それでライトニングにどう思われるかなどと考えるとなんだか勇気が出ない――変な奴だと思われはしないだろうかとか、拒絶されるのが怖いとか。そんな要らないことばかりを考えてどうしてもその先にあるライトニングの手を握ることがフリオニールには出来なかった。

「どうした、おかしな顔をして」
「えーと、いや……その、なんでもない」

訝しげに自分を見ているライトニングに今自分が考えていることを口に出来よう筈もなく、フリオニールは伸ばしかけた腕を不自然に大きく振りながらライトニングの隣を歩くことしか出来ないのであった。
グローブに覆われたライトニングの手にちらりと視線を送る。武器を使うが故にそれなりにしっかりとしてはいたが自分のそれよりもはるかに華奢に見えるその掌は――フリオニールにとっては、とてつもなく高い壁に覆われているように見えて……フリオニールはただただ、溜め息をつくことしか出来なかったのであった。

だが、そんな煩悶を抱えていたのは何もフリオニールの方だけではなく……


***


自分の隣で大きく腕を振りながら歩いているフリオニールの姿をちらりと見遣る。理由は分からないが大きく溜め息をついた彼の表情は何かを躊躇っているように見えたが一体彼が何を躊躇っているのかはライトニングには分からない。
そしてふと、先ほどちらりと見えた風景を思い出して――ライトニングはちらりと、フリオニールのごつごつとした大きな手に視線を送った。
確かに自分も、ティファやユウナに手を引かれその手を握り返したことはある。彼女たちの性格、そして自分との関係性。戦士達の中でも数少ない同性の仲間故の気安さからそれを特別なことだと感じたことも一切なかった。
……だが、初めてあの二人から手を取られ、両手を繋がれて歩いた時になんだか彼女たちと心の距離が近づいたように感じられたのはきっと気のせいではないとライトニングは思っている。

もしも、同じようにフリオニールと手を繋ぐことが出来たら――

距離が近いと感じているとは言えただの仲間であるティファとユウナでさえ自分に安心感を与えてくれていたのだ、それが憎からず思っている、心を通じ合わせているはずのフリオニールであったとしたらそこに感じる安心感は如何ばかりのものだろうか。
そんなことを考えはするものの、当然フリオニールの側は自分のそんな気持ちなど知ったことではないだろうから口に出すことなど出来ようはずがない。
言い出せないのならいっそ自分で、とフリオニールに向かって手を伸ばしてはみるものの――いくら心が通じ合っている相手だからとは言え自分からそんなことをするのはなんだか恥ずかしくも感じられた。
その理由はたった一つ、そんな行動が自分らしくないのではないかと思えて仕方がないから――
急に手を取ったりしたらフリオニールにどう思われるだろうか。そんな考えが頭を掠め、結局何も出来ないままにライトニングは伸ばしかけた手を引っ込めることしか出来ないのであった。

「ライトこそどうしたんだ、なんか……困ったような顔してる」
「大したことじゃないんだ、お前が気にする必要はない」

あまりにも当たり前のように問い返してきたフリオニールに短くそう答え、ライトニングは視線を伏せてフリオニールの掌へと送った。

 ――これが戦いの場なら何も躊躇することなどないんだが……やはりフリオニールに変な奴だと思われるのはな……

それはもしかしたらライトニングの側のくだらない意地なのかもしれない。そう思いはしても、そこで素直になることが出来ないのはもしかしたらライトニングの生来の性格なのかもしれなかった。
伸ばしかけた手を誤魔化すように大きく上に振り上げて身体を伸ばす。そして、心の中だけで素直になれない自分自身に舌打ちをしていた――フリオニールが同じことを考えて躊躇っていることなど、気付きもしないままで。


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