さくら、咲いたら-3/3-






「俺……多分、ライトのこと」
「今はそれ以上言うな」

手を振り払われて封じるように告げられ、フリオニールは大きな落胆を抱えたままライトニングから目を反らす。
いっそ言わなければよかったと、ずっと黙っていればよかったと言う後悔がフリオニールの心を苛み始めた――その瞬間に、今しがたフリオニールを拒絶したはずのライトニングの手がフリオニールの肩にそっと触れる。

「その続きは、お前がきちんと現役で合格できた時に聞いてやる」
「……ライト……」
「だから今は余計なことを考えるな。前だけ見てろ」

口調は厳しいままだが、表情はとても優しい笑顔。
フリオニールはそれ以上の言葉を飲み込み、大きく頷いた。
心の中に蟠り続けているこの感情――自分でも気付かないうちに芽生えていた恋心は、今は封じ込める。この想いを解き放つことが出来るのは、自分が今なすべきことを成し遂げた後だと自分に言い聞かせてフリオニールは再び問題集と向き合った。
センター試験まではあまり日がない。何が何でも、自分は現役で合格しなくてはならないのだから……余計なことを考える暇など、もうないのだと何度も自分に言い聞かせた。

***

「…………あった」

合格発表の掲示板の前に立つフリオニールは、そこに自分の受験番号が間違いなく表記されているのを確かめてぽつりとそれだけ呟いていた。
見間違いでないことを確かめるようにもう一度受験票に目をむけ、数字を一桁ずつ確かめる。間違いなくそこにあるのが自分の受験番号だと確かめると、フリオニールの表情には自然と笑みが浮かんでいた……
すぐにライトニングに知らせようとポケットから携帯電話を取り出し、門の方へと向かう。門扉を一歩出たところでフリオニールの目に映ったのは――腕を組んだままじっと誰かを探すように視線を動かしていたライトニングの姿。
その視線が自分の方に向き、それと同時に表情がふっと和らぐ。フリオニールはたまらずに、ライトニングのほうに向かって駆け出していた。

「ライト……来てくれてたのか」
「ああ。その表情を見れば結果は分かるが……お前の口から聞きたい。どうだった?」

促すように自分に向けられた視線に、フリオニールは大きく頷いた。手にしていた携帯電話は、ライトニングがここにいる以上使う必要がないのだからと再びポケットにねじ込んでから一呼吸おき――ゆっくりと、口を開いた。

「うん。合格、してた」
「そうか。おめでとう」
「ライトのお陰だよ。ライトが親身になって勉強見てくれて、それで」
「最終的に合格を掴み取ったのはお前の努力の賜物だ。そこは自信を持て。それと」

穏やかな笑顔だった表情が不意に引き締まり、フリオニールを真っ直ぐに捉える。
ライトニングの表情が変わることで、フリオニールからも自覚しないままに笑顔が消えた――そこにあるのは、真剣な表情で見つめ合うふたつの姿だけ。

「現役で合格したらその時に聞いてやると言ったことを覚えているか?」

きっと、それを切り出されるのだろう。フリオニールの側にはなんとなくその予感があった。
だからこそ、今は笑っていられない。真面目な表情のまま大きく頷くと、ライトニングの瞳を真っ直ぐに見据える。ずっと封じ込めてきた想いを、ようやっと解き放つことが許された――自分の想いを確かめるようにフリオニールは胸に手を当て、ゆっくりと口を開いた。

「俺……ライトのことが好きだ」
「……ありがとう」

言葉と共に再びライトニングの表情に笑顔が戻る。そのまま、ライトニングの手がフリオニールの手に触れた。握られた手はとても暖かく、そして……優しい。

「私もお前のことが好きだった。勉強の邪魔になってはいけないと思ってずっと言えなかったが」
「……うん」

それだけを返すのがやっとだった。
嬉しいような、なんとなくそうじゃないかなんて思ってはいたけれどそれが現実になるなんてまだ信じられないような――そんな感情を抱いてその場に立ち尽くしていたフリオニールの手を引き、ライトニングは歩き始める。
どうしていいか分からずに手を引かれるだけのフリオニールのほうを一度振り返り、ライトニングは柔らかな笑顔を向けた。

「合格祝いだ、今日は何でも好きなものを奢ってやる」
「え、いいのか?」
「ああ。それに、合格したとは言えこれからもお前に教えなければならないことも多いからな」

ライトニングの言葉に、フリオニールは苦笑いを浮かべる。
そう、合格したから終わりではないのだ。逆に、ここからがスタート地点。自分の夢を追うために学ぶべきことはまだまだ沢山ある――想いが通じ合ったとは言え、簡単に対等な関係にはなれないと言うことだろうか。
そんなことを考えていると不意にライトニングから強く腕を引かれる――バランスを崩したフリオニールの後頭部にライトニングの手が添えられ、引き寄せられるように――唇を、奪われた。

「ら、ライト」
「……もっとも、教えてやるなんて偉そうなことを言っておいてなんだが……私自身恋愛経験なんてないから一緒に学んでいくと言った方が正しいのかもしれないが」

ライトニングの言葉に、彼女が言った「教えなければならないこと」の本当の意味を知り――フリオニールは耳まで赤くしながら頷くことしかできなかった。


その夜、秩序荘にフリオニールとライトニングが戻ってくることはなかった。
食事を終えた後のふたりがどこでどのように時間を過ごしていたのかは……ふたりだけの秘密。


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