やさしいてのひら-2/3-






「…ライト」

聞こえてきた声はある意味予想通り。顔を上げれば、そこには心配そうに自分を見下ろしているフリオニールの姿があった。
眉を下げ、どこか躊躇いがちにライトニングをじっと見つめるフリオニールの表情がどこか暗いのは―やはり、自分の気分が相当に重いのが顔に出てしまっているからなのだろうか。
そう考えるとなんだか途端に申し訳ないような気持ちになって―フリオニールのほうを見ることが出来ない。
目を伏せたまま言葉を発することが出来ないライトニング―その耳に届いたのは、いつもの彼の穏やかな声だった。

「…俺には話してくれていいよ」
「あまり情けないところを見せたくもないのだがな」

その言葉が強がりでしかないことは、ライトニング自身が一番良く知っている。
困ったように立ち尽くしているフリオニールに向かって手を伸ばし、丁度その高さにあったマントをしっかりと掴んだ。その、普段の彼女らしくない行動に驚いたのだろうか―フリオニールは目を見開き、ライトニングを見つめている。
自然と顔を上げ、驚きの表情が張りついたままのフリオニールの顔を見遣る。その後に出てきた言葉は彼女にとってはごくごく自然なもの。

「…ふたりになりたい、と言ったら迷惑か?」
「迷惑だなんて…言うわけないじゃないか」

心配そうでいて、それでいていつものとおり優しいその言葉に、自然と口の端が上がる。
心に痞える重い何かが、ほんの僅か溶けて小さくなったように感じられるのはきっとライトニングの気のせいなんてことはなくて。
フリオニールのマントを掴んだまま立ち上がったライトニングは、ごくごく当たり前のように足を進め―フリオニールも、マントを引っ張られるような形になったままライトニングの後についてきていた。
その背中に向かって仲間達からかけられる声は聞こえなかった振りをして、ふたつの姿は野営地から離れていった。


野営地の近く、仲間達が訪れることはないであろう川のほとり。
ライトニングは他の仲間があとについてきていないことを確かめると、河原に流れ着いていた岩に腰掛けていた。ライトニングに従うかのように、その隣にフリオニールも座る。
フリオニールもきっと、ライトニングの様子がおかしいことには気付いているのだろう―横顔に感じる視線はきっと、自分の言葉を待って向けられているのだと分かる。
分かっていて黙ったままでいられるはずなどない。だがそれでも―ほんの僅かな躊躇いは、促すように肩に置かれたフリオニールの手によってかき消されていた。

「…もしも」

黙っていては心配をかけるだけだと分かっている。だが、この言葉を口にすることで余計心配をかけやしないだろうか。そうでなくとも、こんなことを自分が言ってしまってはフリオニールを失望させてしまうのではないだろうか。
頭ではそう思っていても、一度切り出した言葉をそこで止めることなどライトニングには出来なかった―穏やかに、それでも確かに流れ続ける目の前の川のように、ライトニングの言葉は止まることなく続いていた。

「もしもひずみの中で私が倒れることがなければ、あいつらも途中で抜け出そうなんて選択はしなかったかもしれない。もう少し私がしっかりしていれば」
「……ライト」
「戦法さえきっちり組み立てていれば勝てない相手じゃなかったんだ、それなのに…倒れてしまった自分が情けないし、悔しくて仕方がないんだ」

気付けばしっかりと掴んだままだったマントの裾を離し、フリオニールの手を握る。
理由なんて分からないけれど、ただ―その手のぬくもりが、フリオニールの存在にどうしても縋りたくて―自分らしくないと、分かってはいるのに。

「私は自分が思うほど強くなんてないのかもしれない…もっと強ければ、お前にこんな情けない姿を見せることもしなかったかもしれないのに」

そこで止まった言葉、それとともに再び噛み締める唇。
己の弱さと向き合うことだって必要だと分かってはいるのにそれを改めて突きつけられたような気がして―心が、痛くて。
顔を上げる勇気さえ、今のライトニングは持つことが出来なかった。フリオニールがどんな顔をしているか確かめるのが怖くて仕方がない。
それなのに。
肩を引き寄せられ、静かに抱き寄せられる―フリオニールの逞しい腕から与えられるそのぬくもりが、ライトニングの心に感じていた痛みごと柔らかく包み込んでいた。


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