やさしいてのひら-1/3-






自分がいたのは、随分と深いひずみだったはずだ。
目を開けたときに視界に映った空の色に、ライトニングは額に手を当てる。そう、ひずみにいたはずだから空が見えるのはおかしい―その事実にライトニングが気付くには然程時間はかからなかった。

「目を覚ましたか」

かけられた声に視線を移せば、いつもの無表情を守ったままのスコールの姿。確かに、自分とともにひずみに潜っていたスコールがそこにいるのは何らおかしなことではない。
スコールの声に反応したかのように他の仲間―オニオンナイトとウォーリアオブライトの視線もまた自分の方へ向けられたのに気がついて、それと同時にライトニングはゆっくりと身体を起こした。

「…私は、確か…」

記憶の糸を手繰り寄せるように再び頭に手をやる。
はっきりと覚えているのは、確か―勝てると思って戦いを挑んだはずのイミテーションが振るった大剣の一撃をかわしきれず、脇腹を打たれ弾き飛ばされたところまで。その先の記憶はどこか曖昧に感じる…その曖昧さが、何が起こったのかを逆にはっきりと物語っているような気さえしていた。

「我々よりも強大なイミテーションを破壊しようとして奮戦したが残念ながら力及ばず…と言えばいいのだろうか」

ライトニングの想像していたとおりの出来事を淡々と口にしながら、ウォーリアオブライトはポーションの瓶をライトニングに向かって差し出す―張本人のウォーリアオブライトだって、ライトニングに負けず劣らず傷ついていた。
この二人だけではない。ヴァンはライトニングから少し離れた場所に横たわらせられているがやはり意識を失っているし、スコールもかなりの大怪我を負っている。まだ傷が浅いほうに入るオニオンナイトもその小柄な身体には多すぎると見えるほどの傷を負っている―
ライトニングは瓶を受け取りながら全員に順番に見遣り、最後に手の中のポーションの瓶に視線を落とした。

「それにしても…酷い有様だな。倒れてしまった私が言うのもおかしな話だが」

冷静に口にしたはずのその言葉が自分が思っていた以上の哀しみを秘めていたことに一番驚いたのはライトニング。
情けないとか、悔しいとか。簡単に言葉にすればそんなものではあったが、何故かそれを口に出すのは憚られて―それ以上は言葉に出来ないまま、きつく唇を噛み締めていた。

「ライトとヴァンは気を失ってるし皆もこんな状態でしょ。これ以上進むのは危険だと思ったから戻ってきたんだよ。こんな状態で戦いを続けて、全員倒れてちゃうなんて馬鹿馬鹿しいし」

生意気なように聞こえて、その実的を射たオニオンナイトの発言にライトニングは視線を伏せたまま、表情を変えることなく頷いていた。
声を出してしまったら何だか余計なことまで言ってしまいそうな気がして言葉が出てこないまま―噛み締めた唇に感じる痛みはそのまま、彼女の心にも与えられている。

「…一先ず、ヴァンが目を覚ましたら皆の所へ戻ることにしよう。いつまでもここにいても仕方がない」

ウォーリアオブライトの提案に対して返事を返すこともせず―何かを考えることすら億劫な気がして、ライトニングはポーションの瓶の蓋を乱暴に開け放つと頭から薬を被って、そのまま仲間達に背を向けた。


それから程なくヴァンも目を覚まし、一行は仲間達の待つ野営地へと足を進める。
傷だらけの彼らを見て仲間達は一様に驚きの表情を浮かべ、慌しく駆け回っている。やれ手当てをしなければだの少し休めだのと言いながら、傷ついて戻ってきた仲間達の為に動き回るその姿を見ていると―ライトニングの胸には、なんとも言えない感情がこみ上げてくる。
ただそれをどう言葉にしていいのかすら分からず…ライトニングは俯き加減で、未だふらつく足取りのまま仲間達から離れる。そのままごくごく当たり前のように、野営地の端の方に転がっていた倒木に腰掛けていた。
今口を開いたら余計なことを言ってしまいそうな気がして、何も言葉に出来ない―表情にもそれが出ていたのだろうか、仲間達は誰一人としてライトニングに近づいてくることはない。
否―たった、ひとりだけ―


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