恋する彼女の裏表-3/3-






「ライトはさ」
「どうした?」
「仕事してるとこだけ見たら誤解されやすいんだよな…課の連中もライトを冷たいって言ったりしてるし。でも」

本当はすぐにでも腕を伸ばして抱きしめたい、その衝動を必死で押さえ込みながらフリオニールはちらりと横目でライトニングの方を窺う。
―抱きしめて伝えたい、それが叶わない言葉はその行動の変わりに言葉で伝えればいい―上司と部下であるが故に言葉に出来なかったあの時と今は違うのだから。

「俺が本当のライトを知ってるから…それでいいんだよな」
「…優しいな、お前は」

フロントガラスの向こう側に視線を送ったままのライトニングの口元が微かに動く。微笑みを形作ったその唇がフリオニールの言葉をライトニングが喜びを持って受け入れたことを何よりも現している。
やがてライトニングが大きくハンドルを右に切る―手配してある宿の駐車場へと、車は静かに滑り込んで行った。
慣れたハンドル捌きで空いているスペースに車を止め、シートベルトを外すライトニング。車のキーを捻って抜く―淡々としたその行動が何故だろうか、フリオニールの中で押さえてきた衝動に火をつける―
腕を伸ばしてライトニングの手首を掴みそのまま身体を抱き寄せていた―のは、殆ど反射のような行動だった。

「…どうした、急に」
「どうした、って言うかさ…抱きしめたくなった」
「理由になってない」

苦笑いを浮かべながらもライトニングはバランスを崩したような体勢のままフリオニールを見上げている。その腕が伸ばされ、フリオニールの背中に回り………かけたところで、車内に鳴り響くのはライトニングの携帯の着信音。
フリオニールの方に向かっていた腕は何の躊躇いもなくダッシュボードに置かれていた携帯電話に伸び、空いた腕がフリオニールを振り払うように動く。
先ほどまで浮かんでいた笑みは、仕事中に彼女が見せる厳しい表情へと瞬間的に変わっていて―変わりにフリオニールの側には苦笑いが浮かぶ。

「…もしもし、どうしたこんな時間に…は?」

電話の向こうの会話の内容はフリオニールには聞こえない。彼に分かるのは、だんだんライトニングの表情が険しくなっていくことだけ。
さっきライトニングにはあんなことを言いはしたが―素顔のライトニングだけでなく、こうして仕事に取り憑かれたかのような表情を見せる彼女もやはり魅力的…と言うよりも、そんな彼女だからこそ普段見せる穏やかな表情がより愛しいと思えるのかも知れなかった。

「………あのな、そのくらいのことは私やフリオニールがいなくても残った人間だけでどうにかしてくれ。何の為にマニュアルを作ってあると思ってるんだ。あと、残業を減らすようにと社内通知が出ているだろう。あと1時間で仕上げろ、報告は電話ではなくメールで送って来い」

それだけを言い放つと慣れた操作で電話を切り、ライトニングは溜め息をつく。全く、と聞こえた小さな呟きは多分に呆れの色を滲ませていた。
そのままちらりとフリオニールのほうへと視線が届く。先ほどの、半ば怒っているかのようにすら見える表情から、段々とその表情が申し訳なさそうなものに変わり始める―

「すまないな」
「気にしなくていいよ。俺はそう言う、仕事人間な所も含めてのライトが好きなんだから」

言っておきながら気障すぎたかと視線を逸らし、扉を開くとそのまま車を降りる。背後で、格好つけすぎだと聞こえた気がしたのでやはり気障過ぎたと思っていたのは自分だけではなかったようだ。
一足先に車を降りると、ライトニングもすぐに車を降りてくる。コンクリートの地面に、ライトニングの履いたパンプスがぶつかり合ってコツコツと小気味良い音を立てながらその足音は次第に近づき、自分の隣へ。
そして追い抜きざまに耳元で囁かれた言葉―

「後からお前の部屋に行く。続きは…その時に、な」

その言葉と共に更に速度を上げたライトニングの背中を見遣り、ライトニングには見えないと分かっていてもひとつ大きく頷いていた。
―頷いたのは、ライトニングの言葉に対してではないから。
そんなライトニングを…仕事している時と、自分とふたりでいる時の両方のライトニングを愛しているのだと実感した自分自身に対して向けられた頷きの意味を確かめ、フリオニールはライトニングの背中を追うように歩き出していた。


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