「フラジャイル」本文サンプル






 共同生活と言うことはひとつの部屋で寝るということで、この部屋にはベッドはひとつしかなくて。だが今のクイーンと同じベッドで寝ることなどできよう筈がないことくらいはあまり頭の良くないナインにだって分かる。
 かと言って、毛布に包まっても冷たく感じる床にクイーンを寝かせるのも気が引けた。と言うより、そんなことをしたと後で0組の連中に知られたら女性陣からの非難に加え「そもそも女性の身体というのは我々に比べて冷えに弱く出来ていて…」なんてトレイの長話での説教が始まりかねない。
「知りませんよ、風邪を引いても」
「こないだサイスが馬鹿は風邪引かねぇっつってたから大丈夫だろ」
「それならありがたくこちらで寝させてもらいますが…ナイン、自分が馬鹿だと言う自覚あったんですね」
「一言多いんだよコラ」
 自分でも珍しいと思えるような気遣いを台無しにするような言葉にナインは短く毒づいてみせながらごろりと身体の向きを変え、ベッドに背を向けて目を閉じる。
 やがて、ベッドが小さく軋む音と―小さな声で、おやすみなさいと言う一言。その後にナインの耳に届いたのは、規則的な寝息だった。
 …目を閉じていたとは言え、眠ったわけではない―眠れるわけがない。
 しっかりと目を開けると上半身だけを捻るように動かして、ベッドの上で眠るクイーンを見遣る。カーテンの隙間から月の灯りだけが差し込む薄暗がりの中、自分に背中を向けるクイーンの長い髪がはっきりと目に映った。
 見ているだけでなんだか胸が締め付けられるような気がして…逃れるように、再び頭から毛布を被って、無理やりに目を閉じた。

 瞼を閉ざしたナインの脳裡に浮かぶのは、先だっての作戦の時のこと。
 クイーンがこうして、まともな日常生活を送ることにすら困難を生じるほど男性に対して恐怖心を抱いてしまったきっかけの出来事のこと―

 自分たちを追いすがる白虎兵を追い払うためにとひとりしんがりを守っていたクイーンの姿が気付けば見当たらない。その場に残っていたのは、白虎兵の軍靴が大地をしっかりと踏みつけた跡―
「オイ、チョコボ出せ!一番早えぇの!!早く!!」
 すぐ隣にいたジャックの襟首を掴み上げて揺さぶりながら夢中でそんなことを口にして。
 クイーンは強いから。白虎兵くらい一人でどうにでもできるから。だから落ち着け。そうやって投げかけられた言葉を発したのが誰だったのかすら思い出せないほど必死になっていたあの時の自分。
 その合間にエースが魔法を詠唱し、チョコボをその場に呼び出していた。槍を手にしたままそのチョコボに跨って、足跡を必死で追っていた―ただただ、クイーンのことが心配で仕方がなかった。
 やがて足跡は簡易的に作られていた兵舎の前で途切れていて―堅く閉ざされていた扉をチョコボに蹴破らせて中に突入した時の光景をナインはきっと忘れることは出来ないだろう。
 衣服は殆ど形をとどめないほどに破かれ、色白な素肌を晒しあられもない姿で床に倒れ伏していたクイーン。倒れたクイーンの側に転がったままのロングソードと眼鏡、そして夥しい鮮血の紅。
 飛び散る鮮血を流したのがクイーンでないことを証明していたのは、累々と折り重なる白虎兵たちの亡骸―倒れた白虎兵の幾人かが下半身に何も身につけていなかったことが、彼らが事切れる寸前にクイーンに何をしていたかを最も端的に示していて―


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