「A notte nevosa」本文サンプル






「鎧の上からでこの傷か…痛かったんじゃないのか」
「まぁそりゃあ、痛くないって言ったら嘘になるけど」
 フリオニールの答えの意味をどのようにライトニングが受け取ったかは定かではない。だが、ライトニングは一度目を閉じると再び魔法を詠唱しはじめる。先ほどと同じようにその手を包んだ癒しの光はフリオニールの腹の傷を覆う。やがて破れた皮膚は元通りになり、内出血のせいで残った青痣もすっかり消えていた。
 やがて、翳した手から放たれる光が消え、フリオニールの傷もあらかた見えなくなったところでライトニングはその指を先ほどまで青痣のあった肌の上に滑らせ始めた。
 己の肌の上を滑る指の感触…しかも普段、衣服と鎧に阻まれ人に見せることなど殆どない部分に触れるその感触は先ほど腕の傷を癒した時にそうされたよりもくすぐったく思える―と同時に、くすぐったさに似た違う「何か」がフリオニールの中に沸き起こっていた。
 ぞくり、と背筋を走った戦慄は今までに自分が覚えたことのない感覚。全身の神経が、自分の肌をなぞるライトニングの細い指先に集約されていくような錯覚を覚える。そのせいか見慣れたはずのライトニングの手が妙に妖艶に見えて、フリオニールはほぼ無意識のうちに息を飲んでいた。
「…こっちは綺麗に消えたな」
 そんなフリオニールの考えていることはやはり気にも留めていないのだろうライトニングはあっさりとそんなことを言い放つ。彼女が自分に触れていたのは傷の具合を確かめる為だったのだと分かって、ひとり舞い上がっておかしなことを考え始めていたフリオニールの中には先ほどの感覚と摩り替わるように申し訳なさと気まずさが沸き起こっていた。
 なんだかライトニングを見ていることにすら罪悪感を覚えて、フリオニールは慌ててそちらに背中を向ける。そのまま、捲くり上げられた衣服を整えると足元に落とした鎧に手を伸ばした。
「あ、ありがとう…俺はもう大丈夫だから、その…すぐ支度するから、早く皆のところに帰ろう」
「私もそうしたいのは山々なんだがな…外を見てみろ」
 ライトニングに言われるがまま再度振り向き、洞窟の外に視線を送る―猛り狂う吹雪は収まるどころかなお酷くなり、きっと空を覆っているのであろう雲が厚さを増したのだろう…洞窟の外は雪だけではなく、光がさえぎられたことで生み出された真っ白な闇に包まれていた。
「こんなに視界が悪い中ではあいつらに追いつくのも至難の業だろう。少し待って、吹雪が収まってからこの洞窟を出た方がいい」
「でも」
「こんな視界が悪くてはいつまたイミテーションに襲われるか分かったものじゃない。どうせ戻る先は聖域だ、吹雪が収まってからでも問題なく合流できるだろう」
 あっさりと言い切ったライトニングはそのまま、雪の降りこむ洞窟の入り口をちらりと一瞥してから洞窟のいちばん奥まで足を進める。そのまま、壁にもたれるようにして座る―座り込んだライトニングは、鎧を身につける間もなく立ち尽くしているフリオニールを不思議そうに見上げていた。
 ライトニングの言うことが理解できないわけではない。仲間達と合流できないことより、このままこの吹雪の中を進むほうが危険なことはフリオニールにだって分かっている。だがそれを差し引いても―このままライトニングとふたりでいることがなんだかとても恐ろしいことであるように感じられて、その言葉に素直に従うことが出来ない―それが、今のフリオニールの本音。


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