「10年後の君へ」本文サンプル






「…言い出した張本人から言うのがいいんじゃないか?」
「どういうことだ?」
「だから、十年後って最初に言ったシンクが十年後に何をしたいか―ってこと」
 エースの問いかけに対して続いたエイトの言葉に、全員の視線がシンクに集まる。
 そう、そもそもずっと先の未来―十年後に何をするか、と最初に言い出したのはシンクなのだ。今の彼らには想像もつかない途方もない未来の出来事、それでも何かきっかけがあれば語ることが出来るかもしれない絵空事の物語。そのきっかけとして、最初に言い出したシンクの話を聞きたい―エイトが言いたいのはきっと、そう言うことなのだろう。
 十一人分の視線を一身に集め、シンクは小さく首を傾げる。
「んー…わたしもそんなに、深く考えてたわけじゃないんだけど」
「シンクが深く考えてねえのはいつものことじゃねぇのかコラ」
「…お前がそれを言うのか」
 混ぜ返したナインの言葉をキングが更に混ぜ返す。どういう意味だ、なんてナインが短く問い返すがキングは言葉にしないまま視線を逸らす―言葉にするのは無駄だとでも言いたそうに。
 そこでまた、一行の中に沸き起こる笑い。些細なことでもなんだか可笑しく思えてしまうのは、下らないことを言い合って笑い合っているうちは自分たちが死に直面していると言うことを忘れることが出来るから―なのかもしれなかった。
 そんな笑い声の中、ナインの言葉に不満げに唇を尖らせていたシンクだったが―何かを思いついたのだろうか、彼女の表情にはいつもの彼女らしい無邪気な微笑みが浮かぶ。
 その表情を見れば、シンクが何かを思いついたことは分かろうというもの。その場にいた彼らは皆、再びシンクの方に視線を移す―
「…言ってもいいけど、みんな笑わない?」
「ああ、笑ったりしないから」
 セブンの言葉に促されるように、シンクはひとつ大きく頷く。そこで一呼吸置き、全員分の視線を浴びながら小さな―それでいてはっきりとした声がシンクの唇からはあふれ出していた。


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