「のばら色ラブパッション!-Re:MIX-」本文サンプル






「あっちゃー、避けられなかったのか…」
 その声に視線を移せば、彼らの元に駆け寄ってくるのは見慣れた褐色の肌と紫色の髪―ここには宝を探しよくやってくるが、そのたびに出会う「彼女」のその声に秩序の神の戦士達は一斉にそちらに視線を送る。
 言われてみれば先ほど、ライトニングの身体が光に包まれる前…避けろ、と聞こえたのは彼女の…プリッシュの声だったような、そんな気がする。
 少なくとも何らかの形でこの状況の原因に対して答えを持っているのであろうプリッシュのその発言に、ウォーリアオブライトはその鋭い視線をプリッシュの方へと向ける。そしてそれと共に、いつもの彼らしい真っ直ぐな声がその場に響いた。
「避けられなかった、とはどういうことだ?今のライトニングは一体…」
「それについてはわたくしから説明いたしますわ」
 プリッシュが現れたことで彼女もいるであろう事は想像に難くなかったが、あまりにも予想通りにその場に現れたシャントットに一行の視線が移る。
 それに、ライトニングの身に起こったこと―眩い光に包まれ、それから様子がおかしくなったことを考えれば今のライトニングが何らかの魔法の影響下にあることも容易く想像はできようというもの。
 共に行動しているわけではないとは言え過去に何度か顔を合わせたことがある、そのとき彼女が語ったことから彼女が偉大な魔法使いであるということは戦士達もよく知っていた。魔法の影響、と言えばその裏に何らかの形でシャントットが関わっていても何の不思議もない―わけで。
「それで、結局どういうことなんだ」
「出来れば魔法の対象本人に聞かせたくはございませんの…ちょっと耳をお貸しなさいな」
 シャントットはそう言って指だけを動かし、ウォーリアオブライトを近くに呼び寄せる。それに従うかのようにシャントットの眼前にしゃがみ込んだウォーリアオブライトの、それでも高さのある耳元に背伸びをして顔を近づけたシャントットは何事かをその耳元へと囁きかけた。
 途端。ウォーリアオブライトの表情が変わる。眉根を寄せ、唇は呆れたように開かれている。なんとも怪訝そうな、そんな表情―それを見たジタンとヴァンは首を捻り、フリオニールは不安そうな表情を浮かべる。様子が変わらないのは、相変わらずフリオニールにベタベタと纏わりついているライトニングだけ。
 ウォーリアオブライトはそんな仲間達の様子は意に介するでもなく、眉間に皺を刻んだまま額に手を当てている。そのまま、恐らくはシャントットに言われたことを反芻しているのであろう…口の中だけで何度か短く呟きを漏らし、そして再び唇を引き結んで一つ咳払いをした。
 ようやく考えがまとまったのであろうウォーリアオブライトは、視線をフリオニールに送る。そのまま右手で自分の耳を塞ぎ、左手でライトニングを指し示した。
 先ほどのシャントットの「魔法の対象本人には聞かせたくない」と言う言葉と合わせてウォーリアオブライトが指示した内容を理解したのだろう、フリオニールは困った表情のまま、相も変わらず自分に纏わりついてくるライトニングの耳を両手でそっと塞いだ。
「何のつもりだ、フリオニール。そんなことをしなくても私は何処にも行かないぞ」
 フリオニールの行動をなにやらじゃれ付いているとでも解釈したのだろうか、ライトニングは別段不快そうな表情を浮かべるでもない。どちらかと言えばその表情は穏やかな笑みに彩られていたりもして。
 ライトニングがフリオニールを振りほどこうとしたりはしていないのを確認して、ウォーリアオブライトは再び咳払いをすると、シャントットのほうに身体を向けて少し抑えた声で言葉を紡ぎ始める。
「…つまり、今のライトニングは…」
「ええ、目の前にいる人を愛してしまう魔法の効果であちらの青年に恋をした…と言うことになりますわね」
「…はぁ!?」
 シャントットの言葉に、フリオニールの口からはそんな言葉しか出てこない―その言葉を発した状態のまま、ぽかんと口を開けフリオニールはシャントットをただ見ることしかできなくて。
 勿論、少し考えれば分かる。「あの時」光に包まれた彼女が目を開けて一番初めに見たのは、膝をついたライトニングを助け起こしたフリオニール。魔法の効果でライトニングが恋に落ちる相手がフリオニールだったのは、その状況を考えれば至極当然のこと。
 だがだからと言って、その状況をすんなり受け入れることができるかと言えば…答えは、否。



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