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「うっひょっひょ〜、ボークちんにかかればこの程度〜、なぁーんてことないですねぇぇぇ。うん、ボクちん天才っ」

ぴょこぴょこスキップをしたり、時々飛び跳ねたり踊るようにくるくる回ったりしながら一路コーネリア平原を目指す道化―ケフカの姿がそこにはある。
上機嫌なようにも見えるが、それがまたいつもの彼であるように見えなくもない。
時折手に持った輪をひょいひょいと放り投げて弄んでは再びスキップで進み始め、またぴょこんと飛び跳ねてくるくる回るケフカの姿―それがいつもの彼だと言えばそうなのかもしれないが、誰かが見ていたとしても恐らくすぐに目をそらしたことだろう。真面目に見てはいけないような、そんな空気を今のケフカは纏っているようにさえ見えたから。

「随分と上機嫌なことよ。首尾は上々、といったところか」

両手を広げ片足で立ちながらくるくると回転するケフカの頭上を覆うように真っ黒な雲が現れ、その中から暗闇の雲が顔だけを出す―何故全身を出さなかったのか、それは彼女にしか分からない。
その声に、相変わらずくるくると回りながらケフカは顔を上げる。
片足だけを地面につけたまま随分と器用に回るものではあるが、そんなことをいちいち口に出すのも馬鹿らしい気がして暗闇の雲はま回転しているケフカの顔を覗き込んだ。

「あ〜ら雲ちゃん、何くるくる回ってんの」
「回っているのはお前ではないか」

言っても詮無きことときっと彼女も頭では分かっているのだろうが、それでも言わずにはいられないとでも言うべきか。呆れたように放たれたその言葉を意に介する風でもなく、ケフカはぴたりと回転を止めて誇らしげに手にした輪を掲げてみせた。
そもそも化粧のせいで表情が読みづらいケフカではあるが、その表情が笑顔であることは誰の目にも明らかだっただろう。無論、今その表情を見ることが出来るものは暗闇の雲しかいないわけではあるが。

「まぁー何ていうの?ボクちんにかかればこの程度、軽い軽い」
「それは…以前にあの娘がつけていた輪ではないか

あやつりの輪、確かそんな名前だったと思う。
以前に一度、ティナがケフカに操られている時に身につけていたのを見たような記憶があったが…彼が手に入れてくるべきものはこれだった、と言うことだろうか。
誇らしげに胸を張り、えっへん!などと自分で声に出しているケフカの姿はあまりにも滑稽すぎるものではあったが―そこで、暗闇の雲ははたと思い当たったようにケフカの顔を覗き込む。

「…一体お前、何をした」
「何って、先にこれ拾ったからちょちょっと魔法をかけておいただけ。そのまま置いておいたんだけど、ボクちんのお人形は見事に踊ってくれちゃって、もう」
「そうか、あの子供が傷ついていたのはそのせいだったか」

身を覆う雲の中に隠した、自分の探すべきもの…手に入れるほんの僅か前に力尽き倒れてしまった少年の姿を思い出し、暗闇の雲は大きく息を吐いた。
ケフカが手にした輪の効果は良く知っている。恐らくあの少女は…ティナは再び理性を失い、暴走してしまったのだろう。そしてそれを止める為にオニオンナイトは深い傷を負った…
そう考えてみれば、どこか滑稽にも見えるケフカの動きがなんだか腹立たしいものに思えて仕方がなくなってくるのは一体どういう理由なのだろうか。
考えはしたものの答えが出ることはなく、暗闇の雲は一言だけ呟いていた。

「お前のことはやはり好きになれぬ」
「べっつにー、ボクちん雲ちゃんに好きになってもらおうとか思ってないしー。楽しければそれでいいのよ、楽しければ」

再びぴょこぴょことスキップで進み始めたケフカの後姿を見送りながら、暗闇の雲は僅かに表情をゆがめていた。
言葉にするのであればその表情が物語っているのは―不快感と、そして…同情。

「力を得るために壊れてしまった道化、か…哀れなものよ」

その呟きは、きっとケフカには届かない。
もとよりケフカはきっと、同情されることなど望んではいない―
突然宙返りを試みたかと思うと失敗して頭から地面に落下し、イタイイタイと騒ぎながらコーネリア平原へと足を進めるケフカの姿を見遣りながら暗闇の雲は己の身を包む雲の中へと再び姿を消していた。


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