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「…さあ、小娘。その瓶を寄越すがいい」

大剣を背負いなおしたガーランドは目の前に倒れ伏したプリッシュに向かって手を伸ばす。ガーランドが欲しているのは、プリッシュの手の中にある小瓶。
いてて、と呟きながら身体を起こしたプリッシュは、手の中の小瓶にちらりと視線を落とす。その視線はそのまま、兜の奥に輝くガーランドの瞳に向けられた―

「その小瓶、じゃ分からねえよ。ちゃんと名前言え、名前」
「貴様が持っている瓶などそれしかないだろう!いいから早く寄越せ!」
「やー、一応博士から簡単に渡すなとは言われてるしなー」

嘯きながら小瓶を再び懐に仕舞いこむ―はっきりとその名を言えば手渡すのはやぶさかではない。なんせ、自分との戦いに勝ったら渡すと約束はしていたのだから。
だが、こうしてこの瓶の中身の名前をはっきりと口にすることを厭うガーランドの姿がなんだか面白い、と感じてしまったプリッシュ―困ったことに彼女は思いついたことをすぐに行動に移さないと気が済まない性質なのだ、ガーランドを困らせてみようと思い立ったのも何も無理のない話で。

「だから、その…や、やら…れ………」
「やられ何だ?聞こえねえよ」

ガーランドはそこで再び言葉を詰まらせる。かつて混沌の神の戦士達を束ねる役回りだった彼のこんな姿を見たことがある人間が他にいるだろうか、そう考えるとなんだか無性にワクワクし始めるプリッシュであった。
上空を仰いだりプリッシュに視線を移したり、そうかと思えばあらぬ方向に視線を動かしたり…どこか落ち着かない様子のまま、時折ぐ、とかぬぅ、とか言葉を発しながらガーランドは落ち着きのない様子をみせている―本当に、彼らしくない。
その様子がなんだか可笑しくて、プリッシュは傷の痛みさえ忘れたかのように一度懐にしまった小瓶を再び取り出してガーランドの前に差し出してみせた…が、ガーランドが手を伸ばすとすぐに引っ込めて再び懐へとしまう。

「小娘が、いい加減にせぬか」
「だからぁ、名前言ったら渡すっつってんだろ?」

再びぐぅ、と声を発したきり黙りこんでしまったガーランドを見ているとどうしても笑いが抑えきれなくなってしまう。
声が出そうになるのを堪えながら、それでも目だけはどうしても笑いを抑えることが出来ずに口を押さえて声を殺すプリッシュに対してガーランドは苛立ったかのように大剣を突きつけた。

「だからそのっ、や、やられ…ターメリックをだな…」
「…何がそんなに恥ずかしいんだか知らねぇけど、最初からちゃんと言えばこんな時間かからなかったのに」
「そんな駄洒落にしかなっておらぬ恥ずかしい名前をそうやすやすと口に出来るわけがなかろう!」

激昂するガーランドがやっぱり可笑しくて、プリッシュは笑いを堪えながら再び懐の小瓶を取り出す。
…本当は癪だが、約束は約束だ。心の中でそう自分に言い訳をして、プリッシュはやられターメリックの入った瓶をガーランドに向けて放り投げた。
小瓶は放物線を描いてガーランドの元へ。瓶が割れたのではないかと一瞬思ってしまうような金属音と共に、小瓶はガーランドの掌へと納まっていた。

「…全く、小娘が。手間を取らせおる」
「ところでオッサン、その瓶の中身なんだったっけ?」
「誰がこんなつまらぬ駄洒落を二度も言うものか」

短くそう吐き捨てて、ガーランドは剣を引きずりながらその場を後にしていった。
それにしても本当に、「やられターメリック」と口にすることの何がそんなに恥ずかしかったのだろうか…ぼんやりとそんなことを考えながら、プリッシュはガーランドの背中をぼんやりと見送っている。
そしてその姿がプリッシュの視界から消えた頃―背後から聞こえた、ガーランドほどではないとは言え重厚な足音。

「プリッシュ。君に聞きたいことがある…ところでその怪我は」
「…おっせーよ。もうガーランドに持っていかれちまった」
「何?では今、やられターメリックはガーランドの手中にあるというのか」

真面目腐った声でそんなことをプリッシュに問うた足音の主―ウォーリアオブライトの言葉にプリッシュは一度振り返り、そしてその顔を真っ直ぐに見上げる。
ウォーリアオブライトの表情はその声と同じように真面目腐ったもので、逆にそれがプリッシュには不思議にさえ思えていて―

「お前は恥ずかしくないのか?その名前言うの」
「何がだ?やられターメリックの何がそんなに恥ずかしいと言うんだ」

全く持って動揺する素振りすら見せないウォーリアオブライトに、プリッシュは再び笑いを堪え口を手で覆った。

「いや、ガーランドが恥ずかしがってた意味がやっと分かったわ。真面目に言われると逆に面白え」
「…一体何の話だ」

表情のひとつも変えることなく再度尋ねたウォーリアオブライトがやはり妙な可笑しさを覚えさせて、先ほどのガーランドとのやり取りの間もずっと笑いを堪え続けてきたプリッシュはついに我慢できなくなって声を上げて笑い始めた。


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