3
「…ってことはナンだ、オレの対戦相手はユウナちゃんってことか」
全く同じ内容、「モーグリ型のボール」と書かれた紙を互いに見せ合ったジェクトとユウナは大きく溜め息をついた。
互いにとって、なることならば一番戦いたくなかった相手と同じものを探している―つまり、勝敗を決しなければならないと言うこの状況―決して望ましいものではないが、ルールはルールだから仕方ない…その辺は、スポーツマンでもあるジェクトはしっかりと割り切っている。
「しかもモーグリ型のボールなんて…こんなもの、持ってるのは」
「ま、ティーダしかいねえな」
豪快に後頭部を掻きながらジェクトはひとつ溜め息をつく。その仕草がどこかティーダと良く似ていたからだろうか。この状況だというのにユウナはくすくすと笑みを漏らしてそんなジェクトを見ていた。
「でも、ティーダにどうするか決めてって言ったらきっと…ティーダは私にボールを貸してくれると思うんです。それはなんだかフェアじゃない気がして…」
「あぁ、オレもそれは考えたんだけどよ。ティーダに会ったら言ってやろうと思ってんだ、オレと勝負しろってな。オレが勝ったらボールはオレがもらう、ティーダが勝てばユウナちゃんに渡す」
にぃ、と笑ってみせたジェクトの表情は、大人の男性のものだとは到底思えない―まるで少年のような笑顔で、それなのに何故か頼もしく見えた。
確かに、ジェクトが言う方法であれば自分とジェクトが戦う必要はない。きっと自分はジェクトと戦うことは出来ないだろう、それを分かった上でその提案をしたジェクトはやはり大人なのだと…ユウナは不意にそんなことを考えていた。
「…ごめんなさい、ジェクトさん」
「あ?」
「なんだか…その、ジェクトさんに悪い気がして」
それ以上言葉が続かなかったユウナに対し、ジェクトはひとつ息を吐いた―ユウナの中にある、ただ申し訳ないという感情を読み取ったかのように。
「…ティーダはともかく、流石にユウナちゃんとは戦えねえよ」
照れ隠しのようにぼそりと呟いて視線を反らしたジェクトだったが、反らした視線の先に誰かの姿を見つけたのだろうか…表情が変わる。
しかし変わった後の表情は決して厳しいものではなく、なんだか懐かしいものを見るようなもので―釣られたかのようにユウナもそちらに視線を移すと、そこに立っていたのはヴァンだった。
そう言えば彼は渡された紙片が白紙だったと言っていたような気がするが…
「…何してんだお前」
「オレ?オレはネギ坊主とティナを手伝おうと思って探してるんだけど…なぁ、あいつら見なかったか?」
「わたしたちは会ってないけど…」
「そっか。あいつらどこにいるんだろうなぁ」
言いたいことだけ言って、ヴァンはそのまま2人にひらひらと小さく手を振って離れていく。
その背中をぼんやりと見送ったユウナとジェクトだったが、ジェクトが思い出したように一歩先に立って歩き始めた。
「さ、行くぜユウナちゃん。ティーダを探しに行かねえとな」
「…そうですね」
先に歩き出したジェクトの言葉に大きく頷くと、ユウナはその後について歩き始めた。
本当はジェクトとティーダが戦うことだって、ユウナからすれば望ましいことではない。だがティーダの考えそうなことを思えばジェクトの提案した方法が一番公平であることくらいユウナにだって分かっている―
「本当に、どうしてジェクトさんだったんだろう」
「オレだって、出来ればもっと別のヤツのほうがよかったと思ってるよ…ま、こうなっちまったのも仕方ないってこった。ユウナちゃんが気にすることじゃねえよ」
ジェクトの大きな掌がユウナの頭にぽん、と置かれ、そして2つの影はティーダの姿を探して歩き続ける。
その瞬間の2つの背中が、まるで親子のように見えていたことに気づいた者はいなかった、が。