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グルグ旧火山帯、融けて流れ出した溶岩が固まった灰色の大地の上をクラウドはただ歩いていた。
白紙だった紙片は既に投げ捨てている。自分に役目のない戦いであれば特にこれから何かをするべきとも思えない。と言うよりも、この戦いに対して興味を抱くことが出来ない―
同じく白紙だったというヴァンとは先ほど顔を合わせたが、彼はどうもオニオンナイトとティナを探しているらしいと言うことしか分からなかったしクラウドだってその2人の居場所は知らないので一緒に行動するでもなくすぐに別れ―そこから、敵も味方もその姿を視界に捉えることはなく。
そもそも、神々の戦いは終わっているのになんだって自分たちがこの世界に呼び集められたのかそれすら分からないというのにこんなことをしている暇があるというのだろうか。そんなことを考えながら、クラウドはただ歩いている。
足元の冷え固まった溶岩が必要以上に硬い足音を立てる―そう言えば、他の仲間達はどうしているのだろうか。間違いなく自分が立てている硬く冷たい足音を聞きながら空を見上げ、クラウドはそんなことを考えていた―

「やめて!来ないで!!」

その刹那耳に飛び込んできたその声は、クラウドが決して聞き間違うはずのないもの。
それまではこの戦いに興味を抱くことなど出来なかったクラウドであったが、こうなっては―ティファに何かの危険が迫っていることが想像される今となってはそんなことを言っているわけにも行かない。
背負ったバスターソードに手をかけ、クラウドは自然と声のしたほうへと走り始めていた。
そして―クラウドの想像通り、暫く走るとそこではティファが、追いすがるセフィロスの猛攻からひらりひらりと身をかわしているところだった。

「別に今あなたと戦う意味なんてないの!いいからそこを通して!」
「そうは行かない―お前の身につけた『それ』を私によこせ」

そう言うとセフィロスは手にした刀を一閃する。素早く身をかわしたティファではあったが、刃から放たれた空刃にそのスカートがざっくりと裂かれ、太腿が露わになってしまっている。
それが気になったのか掌で切り裂かれたスカートを押さえたティファに向けて、セフィロスの凶刃が再び襲いかかる―!
…クラウドは無意識のうちにティファの前に身を躍らせ、バスターソードを素早く抜くとその刃でセフィロスの刀を弾き返していた。

「また私の邪魔をするか、クラウド。それとも己の役目よりも私と戦うことを優先したか」
「今の俺に役目なんてない。あるとすれば―ティファを守り、あんたを退けること、それだけだ」
「―――面白い」

再び刀を振りかざしたセフィロスに対し、クラウドは動じることなく剣を構える。
こうしてセフィロスと剣を交えたことなど一度や二度では済まない。かつて憧れた英雄、だが今は―心の片隅に過ぎった過去の、彼に憧れ続けた記憶を消し去るかのようにクラウドは足を進めてセフィロスとの間の間合いを詰める。
重量のある剣を片手でやすやすと振り上げ、再び両手で構えなおすとセフィロスに向けて力強く振るう。その身体は弾き飛ばされ、盛り上がった岩へ激しく叩き付けられる。
それでもまだ戦う意思を曲げようとしないのか、刀を手にふらついた足取りながらクラウドの元へと向かってくるセフィロス…彼我の距離はまだ、相応にある。今ならばきっと―クラウドはそう考えながら、剣を頭上へと振りかざした。

「星よ!降り注げ!!」

クラウドの呼びかけにも似た叫びに呼応したかのように、上空からは隕石がセフィロスめがけて降り注ぐ。ひとつふたつはかわしたセフィロスであったが、かわして身構えた先に落下してきた隕石を回避しきれなかったようで腹部にめり込んだ隕石に身体ごと弾き飛ばされる。
隙が出来たとみたクラウドは、自分の背後で呆然としていたティファに駆け寄るとその手首を掴んで走り出した。

「無駄に戦うことはない…行くぞ」
「…ありがとう。また助けられちゃったね」

はにかみ笑いを浮かべるティファに、小さく「気にするな」とだけ告げてクラウドはひたすら走る。セフィロスの気配を感じなくなるところまで―
やがて、ここまで来れば大丈夫だと思えたのかクラウドは掴んだままのティファの手首を離し、そして自分を見上げているティファの頬に触れた。

「怪我はないか」
「うん、大丈夫…でも、早くコーネリア平原に戻らないと、きっとセフィロスはまた私を追って来る」

俯いてしまったティファの表情と、そして先ほどのセフィロスの言葉―ティファが身につけた「何か」をセフィロスが狙っているのだとしたら、ティファの懸念は決して杞憂などにはならないのであろう。
そう言えば、自分は白紙だったがティファは一体何を探しているのだろうか。そしてセフィロスは―その疑念が表情に浮かんでいたのだろう、ティファはどこか恥ずかしそうにしながらクラウドの前に紙片を差し出した。

「セフィロスも私と同じものを持ってくるように言われたんだと思うんだけど…その」

彼女らしくもなくもじもじとした仕草に首を捻りながらも、クラウドは差し出された紙片を手に取り―絶句することしか出来なかった、のであった。

「自分で身につけてるものなんだからこのままコーネリア平原に戻れば万事解決なんだけど、その…ね?途中でセフィロスに取られたりしたら大変でしょ?だから…クラウドも自分の探しものがあるのは分かるけど、できれば一緒に来て欲しいな…なんて…」
「心配するな。俺は…とっくに紙は捨てたが白紙だった」

クラウドの答えに、ティファは安心したようにひとつ息を吐く。その、ティファが息を吐いたのとは全く違う意味合いを含んだ吐息が自然とクラウドの口からは漏れた。

「…しかし、なんだってこんな…と言うか、セフィロスがこんなものを狙っているなんて想像もしたくない」
「そう言う勝負だから仕方ないと思うんだけどね…さあ、行こうよクラウド。またセフィロスが追いついてくる前に」

ティファの言葉に大きく頷き、クラウドは手の中にあった、はっきりとした文字で「背伸びパンツ」と書かれた紙片をティファに返すとまたすぐに歩き始めた。


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