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もう間もなく、目的地の岬にたどり着く。
セシルは傷だらけで意識を失っていたオニオンナイトを背負い、無言のまま歩き続けている。
セシルの隣には同じく傷だらけになったティナを横抱きに抱えたままやはり無言で歩いているティーダの姿がある。ティーダも身体中に傷を負ってはいたが、その表情はどこか誇らしげでもあった―傷ついて倒れている2人を見つけるまでは。
こんな傷を負うような戦いではないはずなのだが、それでも彼らが傷つき倒れていたことがセシルには理解できない。一体彼らに何があったというのだろうか―
ぼんやりとそんなことを考えながら、セシルはただひたすらに歩いている。
背中で苦しそうにうめき声を上げたオニオンナイトをしっかりと背負いなおしながら、セシルの口をついて出てきた言葉―

「ティーダは何を探しててそんな怪我したんだい?」
「オレ?オレは白紙だったっスよ。でも、ユウナとオヤジがオレのモーグリボール探してて、オヤジから…オレが勝ったらユウナに渡せ、でもオヤジが勝ったら自分に寄越せって言われて。ま、勝ったけどさ」

なるほど、最初に出会ったときの誇らしげな表情の理由はそれだったのかとセシルはそこで思い当たった。現に、その話をした今のティーダの表情にはやはりどこか誇らしげなものが浮かんでいる。
だが、ティーダが怪我をした理由は納得が行くにしてもやはりオニオンナイトとティナが倒れていた理由が分からず、セシルはどこか不安げな表情を浮かべていた―
その表情を横目で窺っていたティーダであったが、話を変えようとしたのか無理やりに明るい口調で言葉を繋ぐ。

「な、なあ。セシルは一体何を探してるんだ?もう、探してるものは見つかったッスか?」
「僕の探しているもの、か…うん、見つかったよ」

答えると同時に、セシルの脳裡にはひとつの姿が過ぎる。
自分と同じものを探すことになっていた、甲冑の武人―だが、彼はセシルと出逢った時には既にこの勝負を放棄していた。

―今の俺に守れるものなど何もない…

その悲しげな呟きが、セシルの耳からどうしても離れない。
ただ、だからこそ―セシルはどうしても、一刻も早くコーネリア平原へ戻らなければならなかった。

「何かを守ってこそ騎士、なんだ」
「何スか急に、カッコいいこと言い出しちゃって」

からかうように笑ったティーダが抱きかかえたティナがその瞬間に苦しそうに眉を歪める。
ありゃ、と慌てたように呟いたティーダと、抱えられたティナに交互に視線を送り…そして無意識に、背負っているオニオンナイトをもう一度しっかりと背負いなおした。

「僕が探しているものはね…『守らなければならないもの』、なんだ」
「え、じゃあ…セシルが見つけたって…」
「傷つき倒れた仲間…僕が守らないで誰が守るって言うんだい?もしも彼が元気ならティナくらいは守り抜いただろう、でも彼が倒れてしまったのなら…2人とも僕が守らなきゃ、ね」

彼、と言う言葉と共に背負ったままのオニオンナイトの腰に軽く掌を添える―そうしながら、セシルは再び思い出していた。何も守れないと言い切っていたガブラスの姿を。

「諦めちゃいけないんだ…自分の手の届く範囲にあるものは全て守ってみせるよ。仲間達も、元の世界のみんな―家族も、国も、みんなのことを」
「…やっぱセシルってオトナっスねー」

しみじみと呟いたティーダだったが、何かに気付いたのか―にぃ、と笑みを浮かべて視線だけで自分が見つけたものを指し示す。
セシルもまた、ティーダの視線の行く先を追って…小さく笑みを零した。

「あそこにもいるっスね、セシルが守らなきゃいけないヤツ」
「…みたいだね」

得物の槍を地面につきながらふらつく足取りで歩いているカインと、カインと歩調を合わせてその隣を歩くゴルベーザの後姿を見て取った2人はそのまま駆け出していた。
セシルにとっての「守るべきもの」に追いつくために―



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