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「だから、流石にずるいと思うんだよ僕は」
「ずるくはねえだろ、勝負は勝負なんだからさ」

シャントットがゴールとして指定したコーネリア平原の岬に一番乗りに帰ってきたのはジタンだった。
ジタンが帰ってきてから遅れること暫く、既に自分が目的のものを手に入れることが出来ないと悟ったクジャは手ぶらのままコーネリア平原に戻ってきて、想像通りそこにあったジタンの姿を見て取るとわき目も振らずにそちらに歩み寄って、そして詰め寄ったのだった。

「大体ジタン、君は本職の盗賊じゃないか。こんなの、君が勝つに決まってるだろう」
「だからそうとは限らねえだろって。ま、実際勝ったのはオレなんだからさ、お前は大人しくしてろよクジャ」
「…喧嘩両成敗」

言い争い…と言うより、一方的に突っかかるクジャとそれを軽くいなしているジタンの間に入ったシャントットは杖を一閃。そして2人の間に放たれた炎に慌てたように飛びのくジタンとクジャ―
シャントットは大きく溜め息をつくと、燃え広がる前に炎に水の魔法をぶつけて消し止めると2人の間に割って入った。

「兄弟喧嘩は後になさいな。大体そちらのおチビさんの言うとおりでしてよ、本職の盗賊だろうがなんだろうが勝てばそれでいいんです」
「おチビさんって、ジタンより更に小さいおばさんが何を言うかと思ったら」
「あなた…燃やし尽くされたいのかしら」

再び杖を振り上げたシャントットから逃げるようにクジャはジタンの背後に回る。先ほどまで詰め寄っていた相手を盾にしようと言うのだから随分な行動ではあるが、別にクジャもそこまで深く考えているわけではないだろうと思ってジタンも特に何を言うでもない。
シャントットの方はそれ以上何かを言う気も失せたのか、ジタンとクジャに背中を向ける―その視線に映ったのは、シャントットを目指して走ってくるひとつの影。

「お、スコール」

その人影の正体にすぐに気づいたのか、ジタンは嬉しそうな笑みを浮かべて大きく手を振る。
一心不乱に走り続けていたスコールはその動きに顔を上げ、ジタンがそこにいることを確かめて微かに安堵の表情を浮かべてから再び走り始めた。
この調子であればあと数分も経たずにスコールはここへたどり着くだろう、そう思えていた…はずだった、が。

「…あれ、スコール…何やってんだ」

突如足を止めたスコールに、ジタンは怪訝そうな表情を浮かべる。決してふざけているとか、疲れたから休んでいるとかそう言う類のことでなく…
そう、まるでスコールの周りだけ時間が止まってしまったかのような。

「これは…もうひとりのおばさんが悪巧みを始めたようだね」

クジャのその言葉の意味が理解できず、ジタンは首を捻る。だが、その言葉の意味をすぐに目の当たりにすることになる、わけで。
動きを止めたスコールの隣に姿を見せたアルティミシアは、スコールがその手に大事そうに持っていたいばらの冠を奪い、そしてゆったりとした足取りでシャントットの元に歩み寄ってくる。

「いばらの冠、手に入れてきました」
「よござんす。この勝負に関してはカオス側の勝ちですわね」
「って!今の反則じゃねえの!?」

動きを止めたままのスコールと余裕の笑みを浮かべているアルティミシアを交互に見遣りながらジタンがそう言って声を荒げる。
言われた側のアルティミシアは言葉を返すこともなく、涼しい表情でスコールの方に視線を送る―そのアルティミシアを見上げるシャントットは僅かに首をかしげ、そしてこともなげに言い放った。

「さっきも言ったでしょう、勝てばそれでいいんです」
「…自分が言われる分には気にならねえけど、この状況で言われるとなんか釈然としねえ」

そのままアルティミシアを見上げるジタンの表情は―怒りたいのに相手が女性であるが故に本気で怒ることも出来ず、言葉にすら出来ない感情を孕んだなんとも複雑なもの、だった。

「ところでクジャ…誰がおばさんです?剣と矢と斧と槍、どれを喰らいたいか言ってごらんなさい」
「なんであの距離で聞こえてるんだ…」

ぽつりとそう呟き、クジャは再びこそこそとジタンの背後に隠れるのであった。
…その場に現れた、モーグリ型のボールを手にしたユウナがきょとんとした表情でその光景を見ていたのも無理からぬ話、かもしれない。


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