白い波に抱かれて-1/5-






その日、一行はメルモンド湿原を歩いていた。
雨の多いこの地域、この日も例によってしとしとと雨が降り続いている。
一行はその雨を避けるかのように早足で湿原を横切っていく―しかしもうそろそろ日が暮れる。
いつものごとく、そろそろ野営の準備を始めようかとウォーリアオブライトが声をかけようとした…ところで、一行のもとにふらふらとモーグリが近づいてくる。
この近くにモーグリショップはなかったはずだが、と一行が不思議に思っていたところでモーグリはふにゃりと表情をゆがめる。
笑ってるね、とティナが言わなければそれが笑顔なのかどうか誰にもわからなかったが。

「おにーさんたち、こんなとこでテント張っても地面水浸しだから落ち着いて寝られないクポ」
「む…それはそうだが」
「こんなこともあろうかと、今まで使ってくれたKPの力を溜めてあーいう物を作っておいたクポ」

モーグリの手がひょい、と岩場を越えた先を指し示す。そこにあったのは石造りの、簡素ではあるがそれなりの広さがある建物。
全員がそちらに視線を送り、そしておおっだのすげーだのと声を上げる。
ウォーリアオブライトだけが妙に冷静にその建物を観察し、そしてモーグリを真っ直ぐ見据えた。

「あれは…宿屋、か?」
「そのとーりクポ。いっつもテントでばっか寝てんだったら、たまにはちゃんとしたベッドで身体を休めて戦いに備えるのも大事クポよ」

そう言いながらモーグリはフラフラと建物の方へ向かい、一行にひょこひょこと手を振ってみせた。どうやら手招きをしているらしいがなんせ身体がアンバランスなのでバランスを崩してひっくり返りそうになったりしている。
その様子をティナがうっとりと見ていたりするのはまあ、いつものことと言えばそうかもしれない。

「勿論お代は要らないクポ。その代わり、これからも沢山KPを溜めてモグたちのお店で買い物してくれたらそれでいいクポ」
「…では、お言葉に甘えさせていただくとするか」

ウォーリアオブライトのその言葉に、真っ先に走り出したのはバッツ。

「一番いいベッドがある部屋、おれがいただきー!」
「あっ待て、ずるいぞバッツ!」

すぐにその後をジタンが追い、他の者も走りはしないまでもそれに続く。
最後尾に続く形でウォーリアオブライトが歩き始めたところでモーグリが一度彼らを呼び止めた。

「あ、そうそう。あんまり広くは作れなかったから8部屋しかないクポ。ベッドは1部屋に2つ用意してあるし、おにーさんたちは丁度16人だから1部屋を2人で使って欲しいクポ」

モーグリのその言葉にウォーリアオブライトが頷き、そしていつものよく通る声で仲間たちに呼びかける。

「そう言うことだ。部屋割りは各自話し合って決めるように」

とは言うものの、そんな真面目な話し合いが行われていたわけでもなく…
ヴァンが勝手にオニオンナイトと同室と決めてしまったり、ティナがモーグリを連れ込もうとしてユウナに止められたり、そうかと思えば真っ先に部屋を決めてくつろいでいたのはセシルとカインだったり。
そんな中、クラウドがフリオニールの肩を叩く。

「フリオニールは俺と同室でいいか」
「え?ああ、俺は構わないけど…」
「げー、フリオニール取られた。仕方ない、オレ1人で陣取ってるからあぶれたヤツが来ればいいっスよ」

ティーダがそんなことを言って茶化していたが、実際クラウドのその申し出はフリオニールからしても意外な物だった。
彼のことだから、多分最後まで1人であぶれていて誰か残っていた人物と同室になるだろうと誰もが思っていたのだから。
実際、意思表示があまり得意ではないと思われるスコールはかなり最後の方まで同室になるのが誰か決まらなかったようだったし。
だからまさか、「誰か残っていた人物と同室」になるのがクラウドではなく、最後までバッツと一番広い部屋を取り合っていたのに結局バッツがちゃっかりスコールと同室を確保した為にあぶれてしまったジタンだったのを見た全員が呆れ笑いを浮かべた物であった。

「なーんでオレとあんたが同室なんだろうな」
「君がいつまでもはしゃぎまわっているからだろう」

ウォーリアオブライトと同室になることが決まってどこかげんなりしているジタンを見送ってからフリオニールもクラウドを伴って適当な部屋に入る。

「それにしても珍しいな、クラウドが自分からこういう状況で意思表示するなんて」
「ああ、まあ…な」

…このときのフリオニールはまだ気付いていなかった。
クラウドのこの短い返答に秘められていた「真意」に。

宿屋としての体裁は取っているが流石にモーグリが夕食まで用意するのは難しかったらしく、食事はいつものようにその日の食事当番―この日はティーダだったが―が作り、食卓を全員で囲む。
いつもとは違う雰囲気の和やかな食卓。
まあいつものごとくバッツとジタンがおかずを奪い合っていたり、ヴァンがオニオンナイトに好き嫌いするなとか言ってオニオンナイトがそれを面倒そうにあしらっていたり、それを見ているラグナがけらけら笑っていたりするのはご愛嬌。
一行はなんだか新鮮な気分で食事を終え、三々五々それぞれに割り当てられた部屋へ戻っていく。

「折角の機会なので明日は出発を少し遅らせ、今日はゆっくりと休養を取るものとする。朝食当番は私なので早めに起きて準備しておくから各自適当な時間に朝食をとり、昼までにこの宿の門の前に集まるように」

ウォーリアオブライトがまたもよく通る声でそう言って、全員がそれに適当に返事を返しながら自らに割り当てられた部屋へと入っていった。


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