魔列車で行こう-side/deep- -2/6-






「とりあえずそこに座っていろ…そこからでも風景なら見えるだろう?」

そこ、と窓に程近い場所に置かれた椅子を指差したライトニングに頷きだけを返して、フリオニールは椅子に腰掛けると再び窓の外へと目をやる。
真っ暗闇の中まるで舞うかのように降り続く銀色の雪を眺め、フリオニールはひとつ息を吐いた…先ほどまでと違うのは、ガラス1枚隔てていることと直接風を浴びているわけではないために寒さを感じることがないこと、そして…自分の向かい側、ベッドに腰掛けたライトニングがいるということ。ただそれだけでしかない―

「ほら、とりあえずこれを」

ライトニングの声に視線を移すと、先ほど食堂車で注文していたポットの紅茶がカップに注がれてフリオニールの手の届く場所に差し出されていた。
ありがとう、と短く答えて差し出されたカップを受け取るとすぐに一口口をつける…全く自覚がないままに冷えていた身体に染み渡るような温かさ。たったの一口とは言えそれだけで、身体の奥からぬくもりがじんわりと広がっていくような感覚を覚えていた。
そして再びカップに紅茶を注ぐ音と、ややあって漏れた吐息。窓の向こう側の景色から目を離さないフリオニールではあったが、聞こえるその音からライトニングもまた紅茶に口をつけたのだろうと想像がつく。

「お前は…この風景の何にそんなに惹き付けられたんだろうな」

聞こえた声に視線を移すと、ライトニングもまた窓の外をじっと見つめている。先ほどまでフリオニールがそうしていたのと同じように。
だが、すぐにフリオニールの視線を感じたのだろうか…視線を戻すと真っ直ぐにフリオニールのほうを見つめてくる。今度はそのライトニングの視線から目が離せなくて…

「自分でも分からない。でも、なんか不思議だな…と思って。空を飛んでいるわけでもないのに、こんなスピードで地上を流れる景色が見られるってことが」
「飛空艇があっても列車がない世界…だったな。お前の元いた世界は」
「ああ。だからなんて言うんだろうな、この世界に来てから色々と、きっと元の世界にいたままだったら知ることのなかったものを知って、見ることのできなかったものを見られて、出会えるはずのなかった人と出会えて…そう言う意味では俺、この世界に感謝しないといけないのかなって」

フリオニールの言葉を聞いて、ライトニングが不意に微笑んだ―その理由が分からないままただライトニングを見つめているフリオニールだった、が。
再びカップに口をつけたライトニングが紅茶を飲み干したところで、笑顔の理由は彼女自身の口からゆっくりと滑り出していた。

「…その中には私も含まれているのだろうか、と考えたら…そうだとしたらとても幸せだと思った。それだけだ」
「勿論。ライトに出会えた事も感謝してる」

交わし合う笑顔、そしてライトニングは空になったカップをベッドサイドのテーブルに置いた。それに釣られたかのようにフリオニールもカップの中身を飲み干し、同じようにテーブルにカップを置く。
それを見計らったかのようなタイミングで、ライトニングはベッドを…自分の隣あたりをぽんぽんと叩いた。

「フリオニール。隣に来てくれないか」
「…ああ」

誘われるように椅子から立ち上がるとライトニングの隣に座る。それを待っていたかのように、ライトニングは背後に畳んで置いてあった毛布をフリオニールの肩に被せた。
突然のその行動に、フリオニールは戸惑ったように肩にかけられた毛布に触れる。その様子が可笑しかったのか、ライトニングは小さく笑いながら毛布に触れているフリオニールの手にそっと手を重ねた。

「…まだ冷えるだろう」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ…でも」

ライトニングの言葉に、ふと思いついたこと―フリオニールは毛布の端を掴むと大きく広げ、そのままライトニングの肩を抱くように毛布の中にその身体を巻き込む。
突然のフリオニールの行動に目を丸くしているライトニングの身体をそのまま抱き寄せると、その肩に手を滑らせながらフリオニールは小さく笑って見せた。

「毛布よりこっちの方が暖かいかな、と思って」

返された笑顔は何処か呆れたようなものながらも―嫌がる素振りを見せるでもなく、ライトニングはそのまま大人しくフリオニールに抱き寄せられている。
身体が触れ合った部分からじんわりと感じるぬくもり―ライトニングの体温は先ほどまで感じていた寒さをいとも容易く忘れさせるもので。
そしてそれ以上に、近くに抱き寄せたことで鼻腔をくすぐるライトニングの香りと柔らかな肌の感触は体温とは別の熱をフリオニールの中に生み出す―間近にあるライトニングの横顔を見ているとそれだけで鼓動が早くなる。
恋人同士になって随分時間が経ったのに、それでもやはり…こうして間近にその存在を感じると胸が高鳴るのが止められない。どれだけ一緒に時間を過ごし、どれだけ身体を重ねてもなお、飽きることを知らないどころかより深くなるライトニングへの愛しさがフリオニールの中にふつふつと沸き立ちはじめる。
そんなフリオニールの想いを知っているのかいないのか。ライトニングは微かに顔を上げ、フリオニールの方を見つめている―フリオニールは吸い寄せられるように顔を近づけ、そっと唇を重ねていた。


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