魔列車で行こう-side/deep- -1/6-
一晩かけて終点にたどり着き、翌日に元々乗車した駅へ戻るのだという魔列車。
こんなところに線路が走っていた覚えはないのに、何故か今列車はエルフ雪原を走っている―他に乗客がいない事といい、この列車にはあまりにも不思議なことが多すぎた。
だがそんなことよりも…列車と言うものに全く縁のない暮らしをしていたフリオニールは、こうしてどういう仕組みでかは分からないながらも地上を走るこの魔列車と言う乗り物そのものに強く興味を惹かれていた。
車両と車両を繋ぐデッキの部分に出て、車両が走っているからこそ生まれる風に髪をなびかせながら…ちらほらと舞う雪をぼんやりと眺めている。
そう言えば他の仲間達がそろそろ寝るという話をしていたような気もするが、なんとなく…流れる景色と舞い落ちる雪を見ていると心が奪われて、何だか元の車両に戻る気にならなくて―
「まさかとは思ったが…まだいたのか、フリオニール」
背後からそう声をかけられるまでフリオニールはただただ流れる景色を見つめていた―呼びかけられて我に返ったかのように振り返ると、そこには腕を組んだままのライトニングが立っていた。
既に武器などを持っていないことを考えると、彼女ももうそろそろ眠ろうとしていたのだろうか。
そう言えば先刻、背後を女性陣が通過していったのは覚えている。その時にもライトニングにあまり長い時間こんなところにいると風邪を引く、なんて言われたような気はするが…
「ああ…なんか、こう…流れる景色と雪が綺麗でさ。目が離せなくて」
「気持ちは分かるがいつまでもこんなところにいると風邪を引くぞ。せめて車両の中で見たらどうだ」
「うん。もうちょっと見たら戻る」
フリオニールの返事を聞いて、ライトニングは呆れたように大きく息をついた。そのまま腕を伸ばし、その掌がフリオニールの腕にそっと触れる。
…自分ではそんな意識はまったくなかったが、腕に触れたライトニングの掌の暖かさに随分と自分の身体が冷えていることをそこで思い知らされた…様な気がした。
そしてその瞬間に、自分が震えていることに気付く。そこまでの寒さを感じていたことにさえ、フリオニールは全く気付いてはいなかったのだ。
「…かなり冷えているじゃないか」
「みたいだな。自分でもそんな意識はなかったけど」
「みたいだな、じゃないだろう。…だが、あっちの車両には毛布の1枚もなかったな、確か」
ライトニングはフリオニールの冷えた腕をさするように掌を動かしながら一瞬思案し、そして何かを思いついたかのようにその手をしっかりと握り締めると何処かへ向かって足を進める。
腕を引かれる形になったフリオニールはただ首を捻るだけだったが、ライトニングはフリオニールがなかなか着いてこないことに業を煮やしたのか振り返ると言ってのけた。
「こんなに冷えたまま寝て風邪を引いてもよくない、私の部屋で何か暖かいものでも飲んで少し身体を温めてから戻ったらいい」
「え…でも」
「心配しなくても私の部屋は一番手前だし隣の部屋のティナはもう寝ているようだった。お前が少しくらい私の部屋に滞在したところで誰も気付かない」
行くぞ、とだけ付け加えて歩き出したライトニングに、腕を引かれるままフリオニールも歩き始める。
先ほどまではそんなに意識もしていなかったが、ライトニングに言われ…そのあたたかな掌が自分に触れたことで、自分の身体が冷えていたことを思い知らされていたフリオニールはもう、ライトニングに逆らうつもりはなかった。
ライトニングが自分を心配していることも充分に分かっていたし、それよりも何よりも…ライトニングの掌の温かさが心地よくて、もう少しだけでもライトニングの隣にいたいと思ってしまっていたから。
途中、食堂車を通過した時に部屋で飲むと言ってライトニングがポットで暖かい紅茶を注文し、そのポットを片手に個室の寝台車両へとやってくる。
自分の腕を掴んでいたライトニングの掌はそこで離され、寝台車両に入ってすぐの部屋の扉を開け放つとフリオニールに先に入るようにと視線だけで促した。
それに従うかのようにフリオニールは決して広いとは言えないその個室の中へと足を進める。そのあとに続いてライトニングも部屋へと入り、静かに扉を閉めるとベッドサイドの小さなテーブルにポットを置いた。