御伽噺に出来ない恋-1/6-






自分がいつからそんなことを気にしていたのか、フリオニール自身にも全く分からない。
だが、ライトニングがウォーリアオブライトを「御伽噺の住人」と呼んだ時にふと思ったのだった。彼女からすれば自分もそう見えているのかもしれない、と。
それが嫌だというわけではなかったがライトニングから自分がどう見えているのか気にならないと言えば嘘になる―折を見ていつか聞こうと思っていたそのことを訊ねるいい機会だと、フリオニールは直感的に思っていた。
自分にとっては元いた世界で使っていたものに近い懐かしい調度品を、アンティークのようだと呟いたライトニングの言葉を受けて…そこで漸く、訊ねることができた。
そしてそれに対してのライトニングの答えはフリオニールが望んでいた以上のもので―

「私は生まれた世界が私とは全く違うことも含めてのお前を愛しているし、それに」

頬に触れるライトニングの手は暖かく、優しい。例え生まれた世界が違ってもこのぬくもりに嘘などない。
そんなことを考えているうちにライトニングの腕は自分の背中に回り、空色の瞳は真っ直ぐに自分を捕らえている。
自分を捕らえている瞳はやがて、何かを思いついたようにほんの一瞬だけ微かに見開かれ…再び、その視線がフリオニールを捕らえた。

「戦うことしか知らなかった女と御伽噺の世界から現れた戦士。ふたりはやがて恋に落ちる…恋物語としては上出来じゃないか」

正直に言えば、ライトニングがそのようなことを言うとは思っていなくてフリオニールの側にもかすかな驚きが浮かぶ。
凛としていてどこか冷たくも感じる彼女がそんな、まるで夢見る少女のようなことを言い出すとは流石にフリオニールも思っていなくて―何故だろう、今のライトニングがいつもとは違う…とても、可愛らしい存在のように思えて仕方がなくて。

「…そんな綺麗な物かどうかって言われるとちょっと困るけど」

浮かんだ考えを振り払うかのように、誤魔化すかのようにそう言ってフリオニールはライトニングに微笑みかける―その笑顔を確かめたライトニングは腕を伸ばしバンダナの上からフリオニールの頭を軽く撫でる。
撫でられる感触にフリオニールは目を閉じて、返すようにライトニングの髪に触れる―でも、フリオニールが考えているのはもっと別のこと、で。
分かりきったことではあったがライトニングにだってそんな女性らしい考え方があっておかしくないわけで、でもそんなことをこうして自分にぴったりと触れられた状態で言われてしまうと…

「恋物語はお気に召さないか?」
「いや、そうじゃないんだ…でも」

そう、ライトニングが言う「恋物語」が気に入らないわけじゃない。
でも、自分の想いがそんなに綺麗なだけのものかと言うと決してそんなことはなく…
そんなことを考えながらライトニングの顎に手を添えて軽く持ち上げると、目を閉じて顔を近づけ…唇を触れ合わせた。
一度触れた唇はすぐに離し、それでもなんだか名残惜しくて再び唇を重ねる。
そしてフリオニールのほうから離した唇を、今度はライトニングから奪う。そしてもう一度唇は離れて重なり合う―何度も、何度も繰り返される口付け。
もう何度口付けを繰り返したか分からなくなりかけたところでフリオニールはふと気づき、一度ライトニングの身体を離すようにその肩を両腕で押す。

「フリオニール?」
「このままじゃ丸見えなのを忘れてた」

そのまますたすたと倉庫の入り口へと近づき、入り口の扉をしっかりと閉ざす―簡易なものだが鍵もあり、フリオニールは何の迷いもなく鍵を閉ざした。
内鍵では、もしかしたらジタンが鍵を持っていたりしたら扉を開くことが出来るかもしれない。そこまで考えたフリオニールは扉の引き手のところに背中に刺した槍を通す―まるで閂の代わりにするかのように。
これでこの倉庫の前を誰かが通りかかっても自分たちの姿を見られることはないし、閉ざされた扉を訝しみ開けようとした者が現れても扉が開くことはない。
―そう、綺麗なだけの恋物語ではなく。自分の中にはもっととめどない欲望が眠っている。ライトニングにもっと触れていたい、と言う欲望が。
そんなことをフリオニールが考えているのを知っているのかいないのか。いつの間にか、自分の背中に身体を預けるようにライトニングが後ろから抱き付いてきたのに気づいて、フリオニールは後ろに腕を回してその髪にぽんぽんと触れた。
そして一度ライトニングの腕を解かせると身体を反対側に向け、目の前のライトニングの存在を確かめるようにきつく抱きしめる。
抱きしめているだけでライトニングへの愛しさが溢れ出して、先ほど思ったことをふと思い出して…フリオニールは片方の腕を解き、ライトニングの髪に緩やかに触れた。


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