激情の仮面-5/6-






「…それで、結局お前は何を怒っていたんだ」

流石に無理な体勢で揺さぶられていたせいか、それとも激しい快感が未だ尾を引いているのか…それから立ち上がることも出来ずぼんやりと座り込んでいたライトニングだったが、ふと冷静さを取り戻した瞬間に彼女の記憶の中に甦ったのは先ほど一瞬だけ見えたフリオニールの怒りの表情。
それを思い出した途端、今まで起こっていた出来事に対してやはり違和感を感じてしまうのがライトニングの性格であって…乱れた着衣を正しながらその言葉が放たれたのはごくごく自然なことで。
ライトニングのその言葉に、フリオニールは何かを思い出したかのようにライトニングから視線を逸らす。

「それは…」
「私に対して何か腹を立てていたんだろう?だからこんなことをした。違うか?」
「別に、それはもういいんだ…ライトがちゃんと俺のこと好きでいてくれてるって分かったから、もう」

しかし、もういいと言われても到底それで納得できるライトニングではなく。
相変わらず座り込んだままではあるが腕を組みしっかりとフリオニールを見上げている―視線を逸らしたままのフリオニールは、そのライトニングの様子を窺うようにちらりとだけライトニングに視線を送り…そして、観念したように小声でぽつりと呟いた。

「…その、ライトが…バッツと抱き合ってたから…それ見たら俺、なんか…」
「抱き合って…?」

フリオニールの言うことの意味が一瞬分からず、ライトニングは記憶を辿ってみる―そして、ひとつ思い当たった。そんな風に思われても仕方がない出来事があったのだということを。
ライトニングは一旦壁に手をついて立ち上がり、真面目な顔でフリオニールの目を真っ直ぐに見据えはっきりとした口調で言葉を繋いでいった。

「思い当たる節はないでもない…だが」

フリオニールの怒りの正体が分かってくると今度はライトニングの方が無性に腹が立ってくる番だった。
自分の記憶とフリオニールの怒りの原因を突き詰めて考えてみれば…自分に、それどころかこのフリオニールの怒りの原因のひとつになっているバッツにだってどこにも怒られなければならないような要素はなかったのだから。

「バッツにものまねの練習がしたいから戦って欲しいと言われて相手をしていたんだがどうも本気を出しすぎてしまったようでな」
「…ん…?」

ライトニングの言葉の意味がいまいちよく分かっていないらしいフリオニールはきょとんとした顔でライトニングをじっと見つめていた。
しっかりと腕を組んだライトニングは、自分よりも上にあるフリオニールの瞳を真っ直ぐに見上げる。
その視線が真っ直ぐにぶつかり合った刹那、フリオニールの表情にはどこか、怯えにも似た何かが浮かぶ―どうやらフリオニールは気づいたようだ、今度はライトニングが怒りを抱えているのだということに。

「はじめはけろっとしているように見えたが突然前のめりに倒れたからそれを受け止めただけだ」
「…え…はぁ?」

思い出してみれば本当につまらない話だ。立ち上がりかけてよろめいて、大丈夫かと聞くと大したことない…と笑いながら前につんのめってきたバッツの姿を思い出して…頭が痛くなる。
確かに前のめりに倒れたバッツはライトニングにしがみつく形になっていたし、それを受け止めたライトニングの腕はバッツの背中に回されていた…そこだけ見れば、ライトニングとバッツが抱き合っているように見えても確かに仕方なかっただろう。
―そしてどうやらその光景を目撃していたらしいフリオニールはまんまとそう思いこみ、その結果…

「つまりお前は勘違いで嫉妬して勝手に怒って、その結果私にあんなことをした、と」
「あ…えーとその、……ご、ごめんライト…!」

それだけ言ってフリオニールは深く頭を下げる…それはそうだろう、怒っていた理由はただの勘違いで、しかもその結果…フリオニールが取った行動は、僅かとは言えライトニングに不安をもたらしたのだから。
そもそも、いくら恋人が相手だからと言って一方的に身体を開かされることに対してどのように感じるかなんてことは冷静に考えれば分かりそうなものだが…
考えれば考えるほど、ライトニングの怒りは増す一方で。先ほどまでのフリオニールと何が違うかといえば、激情に任せるままの行動に出たか冷静に言葉を繋いでいくか…ただ、それだけ。


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