愛欲の虜-2/6-






「それで、魔法を解除する方法は」
「普通の魔法では解除できませんの。ですが彼女は今、極度の性的興奮状態にある…つまり答えは簡単、彼女を充分に『満足』させることが出来ればそれで落ち着きますわ」
「…簡単に言うが、それはつまり…」

いつも感情を表に出すことのないウォーリアオブライトにしては珍しく、大きく息を吐いて額に手を当てる。
シャントットの言うことを額面どおりに受け取るとするならばライトニングにかかった魔法の効果を和らげライトニングを落ち着かせる方法は…

「簡単な方法でしょう?今の彼女の精神状態を考えれば、相手を選んでいる場合ではございませんもの。幸いなことにこの場には殿方が沢山いるようですし…」

そう言って視線を一行の方に向けるシャントットだったが、全員がそちらから視線を逸らす。
と言うよりも合わせることが出来ない。うっかり指名なんぞされた日には…

「あら、意外と意気地なしが多いんですのね。…別にあなたでも構わなくてよ」

あなた、とウォーリアオブライトを見上げるシャントットだったが、ウォーリアオブライトは首を横に振る。

「少なくとも私には出来ない。例えそれがライトニングの為であったとしても私は…自分に嘘をつくことが出来ない」
「…記憶は失っているはずなのにまだ引きずっている…といったところかしら」

呆れたようにシャントットはひとつ息を吐く―自分に嘘をつくことが出来ない、その言葉の裏にかつて自分たちと共に在った女神の姿を思い浮かべたものは何人いただろうか。
しかしここでウォーリアオブライトが了承していたら後でどんな修羅場が待っていたことかと想像しただけで恐ろしい、とウォーリアオブライトの答えを聞いた仲間達も一様に安堵の息を吐いたのであった。

「だが、このままライトニングを放っておくわけにはいかない…誰か」
「丁重にお断りします」

ウォーリアオブライトが最後まで言う前にバッツがほぼ直角に腰を折ってそう言い切る。
勿論ここで「相手役」を買って出るのは簡単だが…恐らく、正気に戻ったライトニングと、ついでにこの場にいない「一番の適役」に2人がかりで「死んだ方がマシな目」に遭わされるのが容易に想像できた。
他の仲間達も皆一様にうんうんと頷いている―そして全員が願っていた、「早く帰って来い」…と。
そして、その願いが通じたのか否か―

「ただいま、遅くなってすまない…って、何だみんなこんなに集まって」

両手いっぱいに武具だのアクセサリだのを抱えて戻ってきたフリオニールを見る仲間達の目が妙に輝いていて、その状況が全く理解できていないフリオニールはとりあえず手に抱えた荷物を足元に置きながら怪訝そうな目で仲間達を見渡した。
―そして、もうひとり…
先ほどまでへたり込んでいることしか出来なかったライトニングが、フリオニールの声に反応したのか這いずりながらそちらへと移動し始める。
そのライトニングの様子を、仲間達は驚いたように見つめる―フリオニールと交互に。
先ほどまでは動くことすら叶わなかったのにフリオニールの声を聞いた途端これとは、ある種そこには執念めいたものさえも感じられて。

「…ライト?」

流石にライトニングの異常にすぐに気付いたのか、フリオニールはそちらへと足を進める…ライトニングはその足元までやってくると、ぎゅっとフリオニールのマントを掴んだ。
フリオニールを見上げるライトニングの呼吸が乱れていることにも瞳が潤んでいることにもその頬が紅潮していることにも、当然フリオニールはすぐに気付く―ほぼ無意識のうちに、フリオニールはそのライトニングの隣にしゃがみ込んでいた。

「どうしたんだライト…何かあったのか」
「…フリオニール…苦しい…」

苦しい、と呟いたライトニングの両腕がフリオニールの肩に回る。
そのまま、その顔をフリオニールの肩にうずめるライトニング。フリオニールは苦しいと言う言葉に反応したのかライトニングの背中をゆるゆると掌で撫でた。

「あら、ご指名のようですわね。相手を選べるような状態ではないはずですのに」

さもおかしそうにそう言ってシャントットは笑う。
フリオニールはその言葉に反応したかのようにそちらに顔を向ける…その表情は厳しく、険しい。
揶揄するようなその口調に対しての苛立ちもあっただろうが、何よりもライトニングのこの異常事態についての説明を彼が求めるのは当然の感情だし、権利でもあって。

「どういうことか説明してもらおうか」
「同じことを何度も繰り返すのは面倒なんですけれど」

こほん、とひとつ咳払いをして…言葉とは裏腹にシャントットは流暢に今のライトニングの状態をフリオニールに説明し始めた。
その説明を聞いていたフリオニールの表情は面白いくらいにめまぐるしく変わる。
魔法の標的が外れてライトニングに魔法がかかったと言うところでは怒りの表情すら浮かべていたが、今のライトニングの状態を聞いたときには驚きのあまり目をまん丸にし、ついでにこの状態が続いた場合ライトニングに起こる可能性のある危険を聞いた時には焦りや心配の色が濃くなる。
そして、今のライトニングを落ち着かせる「方法」を聞いた時は…耳まで真っ赤になっていて。

「つまり…俺は、その」
「そちらのお嬢さんが落ち着くまで存分に彼女を愛して差し上げるのが今のあなたの役目ですわ。あなたもいい思いが出来るわけですから悪い話ではないと思いましてよ」
「…もう少し言い方と言うものはないのか。今回のこれは止むを得ない選択であって、そんな言い方をされてはまるでフリオニールが単純に欲望に負けてしまったように聞こえるではないか」

呆れたようにウォーリアオブライトはそう言い、そしてシャントットからフリオニールと…そのフリオニールに縋るライトニングの方へ視線を移す。

「もしも君に心密かに想う人でもいたら…私自身がそうなのだからこんなことを言えた義理ではないのは分かっているが、本当に申し訳ないと思う」

ウォーリアオブライトはいつもの真面目腐った顔でそんなことを言う。

「…しかしライトニングをこのまま放っておくわけにも行かない…頼んで、いいだろうか」
「変な言い方だけどこんな状況下でそんなことを気にしてはいられないし…それに」

それに、の続きは…自分とライトニングの関係を知らないウォーリアオブライトには言えなかった。
フリオニールの「想う人」は目の前のライトニングなのだ。申し訳なく思われる筋合いはどこにもない。
そのライトニングが苦しんでいて、助けることが出来るのは自分だけ。それにシャントットが言うとおり、自分にとっても悪い話になるわけではない…
そんなことを考えながら、フリオニールは自分に縋りつくライトニングの身体を横抱きに抱き上げて立ち上がる。


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