水月の夜-1/4-
この世界で彼らは、16人の大所帯で旅をしている。
かつて彼らにとって敵だった混沌の神の軍勢の者と手を取り合うこともあれば、彼らの殆どが記憶としてすら残していないいにしえの兵たちが彼らに力を貸すこともある。
そんな世界ではあったが基本的に彼らは16人で行動していることが多い。
…のでは、あるが。
そもそもこの人数なので、野営をするとなると一苦労である。
基本的には4人で使えるテントを4つ常に持ち歩き、そのテントに分かれて夜を過ごす。
女性4人にひとつのテントが与えられ、他のテントはその時の状況に応じて男性陣が適当にばらけて眠るのが彼らの常ではある。
だが、時にそれでは問題があるのである―特に、ライトニングとフリオニールにとっては。
「すまない、ちょっと出てくる」
女性用に割り振られたテントの中で眠る支度をしていたユウナとティナに、ライトニングはそう声をかけた。
ちなみに、ティファはいない。先刻クラウドの声が聞こえたので恐らく彼と一緒にいるのであろう。
それをライトニングはどうこう言うつもりはない、寧ろどうこう言える立場にない―と言ったほうが正しいだろうか。
「はい。私たちはもう寝るけど、気にしなくていいですよ」
ライトニングがどこへ行くのか―はっきりと口にしてはいないが、ユウナはそれを悟っているからこそその言葉が出てくるのであろう。
ユウナにことが露呈するのはある意味仕方がないことなのかもしれない。何せユウナはティーダと行動を共にしていることが多いし、そのティーダは先の戦いでフリオニールとは随分親しかったようだったから。
「行ってらっしゃい。暗くなってるから、気をつけてね」
彼女らしい優しい笑顔で送り出すティナは自分がどこに行こうとしているのか知っているのだろうか。
知らなくても彼女ならば不思議はない―そんなことをふと思ったこともあったか。
「ああ、少なくともお前たちの眠りを妨げるようなことはしないから安心して眠るといい」
ライトニングはそう言い残してテントを出た。
約束の場所は、野営地から少し離れた湖のほとり。
「…ちょっとごめん、俺出てくる」
男性用のテントの中のひとつではテントの真ん中に車座になって他愛もない話を繰り広げていた―が、フリオニールがそこから抜け出すように立ち上がる。
「こんな時間に?どこに?」
「デートだろ?レディを待たせるもんじゃないぜ、行ってこいよフリオニール」
からかうように笑いながらジタンはフリオニールの背中を叩く。
今日はジタンと一緒のテントだし、彼はこういうことには鼻が利くのでとっくに気付かれてしまっている。
「いや、別にそう言うのじゃなくて…」
「いいからいいから。お前のお姫様が待ってんだろ?」
ジタンの笑顔の裏には隙あらばからかってやろうと言う意思が見えたり見えなかったりするがフリオニールはそれには気付かないふりをする。
デート、と言う言葉で何かを悟ったのか、セシルは笑顔でそんなフリオニールに手を振った。
「そう言うことなんだね。じゃあ、ライトによろしく」
「セシルお前…」
悪気がないのが一番性質が悪い、と言うのは今のセシルにこそ当てはまるような気がする…
フリオニールはそんなことを考えながらテントを後にした。
どこに行くのかと問うたスコールが一体どこまで状況を知っているのかはともかくとして、ジタンの言うとおりライトニングを待たせるわけには行かない。
フリオニールはひた走る、約束の場所である湖のほとりに。