白い波に抱かれて-5/5-
「…それにしても、だ」
「ん?」
フリオニールの腕に頭を乗せ、その胸に手を添えながらライトニングが呟く。
その声音がどこか不服そうに聞こえて、フリオニールはそんなライトニングの髪をゆるゆると撫でながら訝しげに彼女の目を見遣った。
「あれだけ落ち着きがなかったくせに事に及ぶと随分と積極的になるんだからな…お前は閨事に関しては扱いが難しい」
ライトニングの言い分は確かにもっとも。
と言うより、口には出さないがフリオニールも実は反省していたりするのだ。今日は仲間が起き出して来たりするようなこともないし誰にも邪魔されることはない、と言う意識があったせいかやりすぎてしまった、と。
気まずそうに目を逸らしながら、それでも思うままの言葉を繋いでいく。
「いや、そのー…だってほらここ暫くずーっと我慢してたし。それにほら、ライトがすごい気持ちよさそうだったから…こう、もっと気持ちよくなってもらいたいなーとか」
目を逸らしたままなのでライトニングの表情は分からない。だが。
「…とっくに分かっているとは思うが」
呟かれた言葉がどこか笑みを含んでいるように聞こえて、彼女が別に怒っているわけでないことはそれだけで伝わってくる。
逸らした視線を戻すと、ライトニングはいつもの余裕を湛えた表情でフリオニールを真っ直ぐに見据えていた。
「分かってるって、何が?」
「私がやられっぱなしで黙っているわけはない、よな?」
そしてライトニングの人差し指がフリオニールの唇に軽く触れる。
「え…っと、それってどう言う」
「次は覚悟しておけ…今日はもう寝る」
短くそう呟くとライトニングはフリオニールに身体を預けたまま目を閉じた。
その言葉にフリオニールの背中にぞくりと戦慄が走る…
「俺、何されるんだろう…」
思わずそんな呟きを漏らしはしたものの、自分の腕の中で眠りに落ちていくライトニングの横顔を眺めながら…全身を支配する、どこか甘いけだるさに身を任せながらフリオニールもまた眠りへと落ちていった。
余談。
翌朝、部屋を入れ替わっていたことが露呈しないようにと少し早めの時間にライトニングは元々の自分の部屋へ戻っていき、それと入れ替わりでクラウドが戻ってきた。
クラウドもライトニングも移動の間は誰にも会っていない、と言っていたので恐らく2人が部屋を入れ替わっていたことは仲間の誰にも知られていない…はずだ。
勿論フリオニールとクラウドはお互い何があったのか聞いたりするようなことはしない…と言うより、聞くまでもなく「自分たちと同じ」だと理解しているので敢えて聞かないといった方が正しいのかもしれない。
ただ意味ありげに視線を交わしあい…フリオニールが短く「ありがとう」と、そしてそれにクラウドが「いや、こっちこそな」と返してそれで終わり…の、はずだった。
「そこのバンダナのおにーさん」
フリオニールがウォーリアオブライトが作っておいたという朝食をほおばっていると、そこにモーグリがふらふらと近づいてくる。
「ん?」
「夕べはカミナリのおねえちゃんと随分お楽しみでしたクポな」
「!!!…っ、げほっ、げほっ」
思っても見なかった言葉にそのとき飲んでいたスープが気管に入り、フリオニールは激しくむせ始める。
その反応を見たモーグリがふにゃあと顔をゆがめる。それは丁度、ティナが昨日「笑っている」と言ったのと同じゆがめ方。
「でもモグたちはお客様の秘密は他のお客様に漏らしたりしないから安心するクポ。リラックスして愛を深めてもらえたんなら何よりクポよ」
それだけ言い残してふよふよと飛び去っていったモーグリの、背中の小さな羽根を見ながらフリオニールは心の中だけで呟いていた。
―次にここに来ることがあったらもうちょっと気をつけよう…
勿論、相手はモーグリなので気をつけても無駄かもしれないこともなんとなく分かっているしそれ以上に…気をつけたところで、一度火がついてしまったら止められないのは確実に分かっているのではあるが。