首筋:執着/胸:所有
今ふたりの耳に届くのは互いの呼吸と声と、そして鼓動だけ。
フリオニールのバンダナもライトニングのベルトもアウターも、今のふたりが触れ合うのに邪魔なものは全て無造作に放り投げられている。
ライトニングのインナーのジッパーは既に大きく開かれ、その素肌はフリオニールの目の前に露わになっていた。
既に幾度も肌を重ね、どう愛することがライトニングを満足させるのか良く知っているフリオニールの掌が、指先が、唇が次第にライトニングの呼吸を乱していく―
「…愛してる、フリオニール」
乱れつつある呼吸の中で囁かれ、フリオニールはひとつ頷いて腰の辺りに回した掌を動かしながらその首筋に唇を落とす―
くすぐったそうにライトニングが身を竦めるのが何故か嬉しくて、そしてフリオニールの中に湧き上がる悪戯心。
思いついたようにもう一度白い首筋に口付け、そのままきつく吸い付いた。
「…待て…っ、痛…」
ライトニングの制止の声は聞こえなかった振りをして、何事もなかったかのようにフリオニールは唇を離す。
そこに残るのは紅い痣。丁度、戦いの中ライトニングの周りを舞い散り彼女を彩る薔薇の花びらのような…
その存在を確かめると、今度は反対側にも同じように吸い付いて再び痕を残していく。
そうしている間もフリオニールの掌はライトニングの背中を這い回り、時にその髪に触れて指を絡めている―腕の中にいる最愛の存在をしっかりと確かめるように。
ライトニングは時々身を震わせながら、フリオニールにしがみつくようにその肩に緩く腕を絡めていた。
抱き合っていても身体を動かすのに邪魔なほどきつく拘束されているわけではない―フリオニールは唇を離し、同じように残された紅を空いた左手でなぞりながら今度は胸元に唇を落とす―
今度は丁度、ライトニングの胸に刻まれたフリオニールの知らない「何か」を覆い隠すように。
本当はライトニングがとても遠い存在だと、ふたりが生まれた世界が違うことを明らかに知らしめる「それ」を、消すことは出来ないまでも―せめてその上から自分の存在をライトニングの身体に直接刻み付けるように。
何度も何度も、フリオニールはライトニングの身体に口付けを落としていた。
その度にライトニングの身体に残る痣―それは、フリオニールが彼女を愛していることの何よりの証拠。
「そんなにいくつも痕をつけてどうするつもりだ」
「いいじゃないか、どうせ見るのは俺だけなんだし…首は服で隠れるんだから誰も気付かないさ」
「そう言う問題でもないんだがな」
呆れたようにも諦めたようにも見えるライトニングは胸元に視線を遣り、フリオニールが残した痕に指で触れる。
その指に掌を重ねながら、フリオニールは真剣そのものの眼差しでライトニングを見つめた。
ライトニングの空色の瞳にフリオニールの琥珀の瞳が映り、その色が交じり合う―絡み合う視線はただただ熱くて。
「残しておきたかったんだ。この世界にいる間は…ライトは俺のものだって、その証拠」
ライトニングの上半身にちりばめられた紅を愛しむように眺め、指先でひとつずつなぞっていた。
分かっている。ライトニングがいつか自分が全く知らない世界へ還っていくことなんてとっくに分かっている。
でもそれならばそれまでは…彼女を独り占めにしていたい。
それはまるで子供じみた我が侭、つまらない独占欲だと―そう言われてしまえば反論は出来ない。
だが、そんな我が侭を当たり前のように言ってしまえるほど今の自分がライトニングに執着していることくらいフリオニールはとっくに気付いていた。
「こんなもの、数日あれば消えてしまうだろう…こんなもので確かめなくたって、私はとっくにお前のものだ」
「…うん、知ってる…ライトのこんな姿、知ってるのは俺だけだってことも」
自分がつけた痕をなぞっていたフリオニールの指は少しずらされ、周囲の柔らかさとは対照的に硬く尖った中心部を転がすように撫で始める。
「ん、そんな…急に、っ…」
「まだまだ…こんなもんじゃ終わらせないさ」
引き寄せるようにライトニングの背中を抱き寄せ、もう一度その首筋に唇を落とす―ふたりの夜は、まだまだ始まったばかり―