頬:親愛
「もう、こんな無理しちゃ駄目だからね」
「別にオレ、無理したつもりはないぞ」
丁度ポーションを切らしているとかで、他の仲間が調達に走っている間のつなぎとして傷ついたティーダの腕に包帯を巻きながらユウナは心配そうにそう呟く…
ティーダは反論するしか出来ないが、実際ちょっと無理をしすぎた自覚はあるからたちが悪い。
…だが、だからと言ってユウナが危機に瀕しているときにそれを庇わずにいられるようなティーダではないのもまた事実で、ティーダの怪我の原因が自分だと分かっているからユウナもあまり強くは言えない、わけで。
「オレもあんまユウナに心配はかけたくないけどさ。でも男にはやらなきゃいけないときがある、って誰かが言ってた」
「…もう、ティーダったら」
ティーダの冗談めかした口調にユウナはくすくすと笑いながら、それでもしっかりと包帯を巻きつけてしっかりと結び、確かめるように包帯の上からその腕を撫でる。
ティーダにとってはそれがくすぐったく、そして心地よい…
「だけど…わたしの為にこんな怪我されたら、わたし…」
「でもユウナが怪我するよりは一万倍マシだろ」
当たり前のようにそう言い切られて、そしてにこりと微笑みかけられて。絆されたかのようにユウナもティーダに笑顔を向ける。
笑顔のまま見つめ合うふたりの間を邪魔するものは、今はない。
一緒にいられること、笑い合えること。ただそれだけのことが今の2人にはとても幸せで…
ユウナは相変わらずティーダの腕に巻かれた包帯をゆるゆると撫でている。
「…痛くない?」
「へーきへーき。オレ結構頑丈だから」
そう言い切るティーダの表情にはどこにも無理をしている様子はない。本当に大したことはないのだろうか、とユウナがぼんやり考えたところでティーダが不意に真面目な顔に変わる。
「それにオレ…命賭けても守るって決めてるから」
「…ばか」
「いや、ほんとにほんとだから」
口調は冗談めかしているものの、その瞳が真剣そのものだということ位にはユウナも気付いている―だから、それ以上言葉が続かなくて。
嬉しくて、幸せで、何故か悲しくて―こうして一緒にいられるだけでも夢のようなことだと分かっているから―今のティーダには何も言えなくて。
「…ユウナ、もうちょいこっち来て」
そんなユウナに手招きするティーダ…ユウナは言われるまま膝を進め、ティーダのすぐ近くまで身体を寄せた。
もうすぐ身体が触れ合うほどに近づいたところで、不意にティーダがユウナの頬に軽く口付ける―
「『今は』折角一緒にいられるんだから…もっと近くにいたいし、ユウナを守りたい」
「…ずるいよ、ティーダ…それ言っちゃうのはずるい」
ユウナが敢えて気付かない振りをし続けていたこと。ティーダが「今は」と殊更に強調した意味―
いっそ、他の仲間達のように自分にも元の世界の記憶がなければよかったのに。
「…笑えって。ユウナにそんな顔似合わない…って、そんな顔させちゃったのオレだった、ごめん」
いつものように頭を掻きながら、ティーダはまたユウナの頬に口付ける。
「難しいこと考えんのやめやめ。今はただ…オレにユウナのこと好きでいさせてほしい。ユウナには笑っててほしい…かな」
「…うん」
真面目なティーダの表情に答えを返すかのように…今度はユウナが、ティーダの頬に口付ける番だった。