額:祝福






「相変わらずぼーっとしてんのかと思ったら、ちったぁ成長したみたいじゃねぇか」

仲間達にてきぱきと指示を出しているウォーリアオブライトを見上げてプリッシュはにししっと笑ってみせる。
ウォーリアオブライトは案の定、以前自分とともにいたときのことなんて全く覚えてはいなかったがそれでも最近は自分のことも「仲間」だと認識してくれているようで。

「…戦うことだけが私の存在意義だった…そのために私は強くならなければならなかった」
「そーだな。それにしても俺の想像以上だよ、お前の成長っぷり」

からかうように笑いながらウォーリアオブライトの目を見上げる―プリッシュと初めて出会った時にはどこか虚ろだったようにも感じられていたその瞳には、今は誰にも消せない強い光が宿っている。
その光が不意にプリッシュに向けられる。

「…乗り越える痛みは強さになる。不安も、傷も、痛みも…私はさまざまなものを乗り越えてきたつもりだ」

真っ直ぐな瞳でそう言い放ったウォーリアオブライトから、プリッシュは目が離せない。
その瞳の奥の強さに引き込まれるような気がして、プリッシュは慌ててウォーリアオブライトに背を向けた。

「その言葉を教えてくれたのは君だった…はずだな」
「お前…妙な事だけ覚えてんな」
「コスモスが教えてくれた…私に名前と、強さを与えてくれたのは君だったと」

―結局コスモス、か。
背中を向けたまま、プリッシュは心の中だけで小さく舌打ちした。
あの時から分かっていたはずだった。彼の目に映っているのはコスモスだけで、彼が戦うのはコスモスのためでしかなくて―コスモスがいなくなっても仲間達を守ろうとしているのは、仲間達を残したコスモスの遺志を守りたかったからで―

「君にも感謝しなければならないな。私を見つけてくれたのは君だった―と聞いている」
「それもコスモスから聞いたんだろ」
「だが君がいたから私は今ここにいられるのだろう―私に力を与えてくれたのはコスモスと、そして君だった」

―馬鹿。この馬鹿。
そしてまた心の中だけでプリッシュはそう毒づいてみせる―
コスモスしか見えてないくせに、今でもコスモスのことだけを想っているくせに…そしてプリッシュのことなんて自分では何も覚えていないくせに。
それでもコスモスとプリッシュを同列に並べてしまっている。恐らくは、そこまで深く考えずに―プリッシュがそのことに何を思うかなどまったく考えもせずに。

「…期待、しちまうだろ」

ウォーリアオブライトには聞こえないようにそう呟いてプリッシュは振り返り、精一杯の笑顔を作ってみせる。
弱いところを彼には見せたくない。それはプリッシュなりの精一杯の意地―

「おい、お前ちょっとしゃがめ。あとついでに、兜脱げ」
「…何だ?」

怪訝そうに眉を寄せながらも、ウォーリアオブライトは言われるがままに兜を脱いで腰をかがめる。
丁度高さ的にプリッシュの目の前にウォーリアオブライトの顔が来る―兜を脱いだ彼は丁度初めて出会ったときを髣髴とさせて。
いつからこんなことを思っていたのか分からない。もしかしたら初めからだったのかもしれない―分からないけどでも、自分は確かに…彼のことを。
考えがまとまるよりも先にプリッシュはそっと、その額に口付けていた。

「…え?」
「額への口付けは祝福の証…ってな。これからもお前が強く生きていけるように…おまじない、みたいなもんだ!」

それだけ言い残し、プリッシュは走り出した。全力で。
背後でウォーリアオブライトが自分を呼び止める声が聞こえた気もしたが、なんだかそれでも…立ち止まれない。

「…なんだこれ!なんなんだこれ俺らしくねぇ!俺らしくねぇってこれ!なんか顔熱いし!なんだこれ!!」

何かを誤魔化すように大声でそんなことをわめき散らしながらプリッシュはその後も暫く、空腹に耐え切れなくなるまでの間全力で走り続けていた―
そんな声くらいでは誤魔化しきれないことは自分でも良く分かっていた、けれど。







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