髪:思慕






少し大きな岩によじ登って座ったオニオンナイトと、その隣の少しだけ低い岩に腰掛けるティナ。
ティナのほうが背が高いのに、今日はオニオンナイトの視線の方が少しだけ高い―ただそれだけのことが、妙に新鮮に思える。
普段は見上げているティナの横顔が、今日は自分の目の高さよりほんの下にある。普段とはどこか違うティナの横顔をオニオンナイトは真っ直ぐに見つめていた。

「僕ももうちょっと成長したらティナより背が高くなったりするのかな」
「きっとなるんじゃないかな」

それは慰めなどの類ではなく、ティナはきっと本当にそう思ってくれている―
ただ切ないのは、そうして成長した姿をきっとティナには見せることが出来ないこと。
無意識に唇を噛み締めているのに気付いたのか、ティナは腕を伸ばしてぽんぽんとオニオンナイトの兜に触れる。

「…そんな顔しないで」
「でも、僕…時々、なんで僕まだ子供なんだろうって思うんだ。もっと早く大人になりたいって」

それが、悔しくて。
ティナを守りたいのに、みんなを守れる騎士でありたいと思っているのに…時々自分ではそれに届かないような気がして。
そんなオニオンナイトを見つめているティナの瞳は―見つめられている彼自身は気付いていなかったがとても優しい―

「確かに、年齢のことだけ考えたら子供なのかもしれない…でもね」

ティナの手はゆっくりと流れて、膝の上で無意識に固く握っていたオニオンナイトの拳を包み込むように触れる。
手が重なったことでオニオンナイトは再び顔を上げ、ティナの方へ視線を移す。

「君は誰より頑張ってる…私はそれを知ってる。頑張ってる君を見てると、私も頑張ろうって思えるんだ。大人とか子供とか関係ないよ」
「…ティナ」
「ありがとう…私の頑張る力になってくれて」

穏やかに微笑むティナ…彼女はいつの間にこんなに強くなったんだろうか。
そう考えると、オニオンナイトは先ほどまでのネガティブな考えを振り払うようにいつものように勝気に微笑んで見せた。

「ティナがそう言ってくれるなら僕、もっと頑張らなきゃ。ティナのためにも」
「うん…期待してる」

目の前にあるティナの笑顔がとても優しくて、その笑顔を独り占めできることが何より幸せに思えて…
そしてふと気付く。普段は届かない、ティナの柔らかそうな髪がすぐ目の前にあることに。
オニオンナイトは考えるよりも先に手を伸ばし、束ねられたその髪に触れる―。

「…どうしたの、急に」

小さく笑いながらティナはオニオンナイトのほうを見つめている。
いつもは届かないと思えるティナの髪がこんなところにあって。それはただ、高さが違う岩に座っているだけなんて簡単なことで実現するもので。
届かないなんてことはない。自分だって、ほんの少し何かがあればきっとティナを守り抜くことが出来る―
そんなことを考えたのと、手のひらの中のティナの髪に口付けたのがほぼ同時。

「…えっ?」
「あの…ううん、なんでもない。なんでもないんだ」

誤魔化すように笑いながらオニオンナイトはティナの髪から手を離した。
言葉にするのはとても恥ずかしいことのように思えて。でも、それでもオニオンナイトの中にははっきりとひとつの決意がある―

 好きだよ…大好きだよ、ティナ。
 もしも届かないとしてもその分は、君のことを好きだって気持ちで補ってみせるから。
 この世界にいる間は…僕が、君を守るから。







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