召喚士から夢想へ
「下がってろ、ユウナ!」
買い物に出た先でイミテーションに襲われ、応戦する構えを取るよりも先に飛び出してきたティーダの背中をユウナはただ見つめているだけだった。
隙を突かれたのは自分だったのに、ティーダは当たり前のようにユウナを守るために飛び出してくる―いつも、こうやって。
さほど手ごわい相手でもなかったようで、戦うティーダに何が出来るだろうとユウナが考えている間にティーダはこともなげにイミテーションを打ち倒すとすぐにユウナの元へと戻ってきた。
「…ごめんね、ティーダ」
「ん?何で謝るんだ?」
俯いてしまったユウナを見て、ティーダはきょとんとした表情を浮かべている。
どう答えたものかと思案しながらも、ユウナは視線を伏せたまま歩き始めていた。ティーダは当たり前のようにその隣を歩き始める―いつものように。
こうしてティーダと並んで歩くことが出来るだけでも幸せなはずなのに、何故だかそれがティーダにとって重荷になっているのではないかとユウナは思い悩んでしまうことがあった。
「…わたし、ティーダに何もあげられてない気がして」
「なんだ、そんなこと」
あっさりとこともなげにそんなこと、と言い切られてユウナは自分で想像する以上になんだか寂しい気持ちになってしまう―自分はこれだけティーダのことを気にかけているのにティーダにとっては大したことではないんだろうか、などと考えてしまって。
だが、そんなユウナの考えなどお構いなしと言うようにティーダは勢いよくユウナの肩を抱き寄せた。
その勢いと力にユウナは思わず顔を上げる―すぐ間近にあるのは、とっくに見慣れているはずの太陽のような笑顔。
「…ユウナが隣にいてくれることがオレにとっては一番大事なんだ。ほんとはオレのほうが、ユウナにもっといろんなことしてあげたいって思ってるくらい」
「ティーダ」
「隣にいるってことだけでユウナはオレに色んなものをくれてるんだぞ?勇気とか、守らなきゃいけないって思う強さとか。そんでそれは、ユウナからしかもらえないもの」
ティーダの大きな掌が、くしゃりとユウナの髪を撫でる。その感触がなんだか嬉しくて…自然と表情が緩む。なんだかとても、幸せだと強く感じられて。
それに呼応するかのようにティーダから返された笑顔は、元の世界にいたときから感じていた強さと暖かさをより強く感じさせるもので。
「…あのね、ティーダ」
「ん?」
「わたしも、ティーダに沢山のものをもらってるって思ってる…ティーダのために戦いたいって思える強さとか、一緒にいられることの幸せとか」
「そっか」
照れたように笑うティーダを見ていてユウナは心から思う―ティーダの近くにいられて良かった、と。
何もあげられない、そう思うこともある。だが―ティーダの側にいることで自分がティーダから様々なものをもらっていると思うのと同じようにティーダも思っているのだとしたら。
「…これからも、一緒にいような」
「うん」
交わし合った微笑みがまた、ユウナの心に穏やかなぬくもりを与える。
ティーダの存在そのものが、ユウナにとっては何よりの宝物だとそんなことを考えながら…自分を引き寄せる腕の強さに、ユウナは黙って身を預けていた。