少年から少女へ
「これは僕がもらうから」
ひずみの中の宝箱に入っていた貴重なアクセサリを見るや否や、オニオンナイトはそれを素早く懐にしまいこんだ。
他の仲間からは不満の声が聞こえたりもしたが、それらは全て黙殺して涼しい顔でオニオンナイトは先頭を切って歩き出す。
無論、皆分かっている。たかだかアクセサリのことでオニオンナイトがここまで強引に押し切ることなどまずないことは。だから敢えて反論しなかったのだろう―勿論、反論されたところでその数倍は反論し返す準備は出来ていたが。
いずれにせよ、オニオンナイトは再び手の中にあるアクセサリを見遣り、そして目を閉じた―その向こうに思い出すのは、誰よりも大切な人の笑顔。
今の自分の顔は仲間の誰にも見られてはいけない。そんなことを考えていてもどうしても、彼だって頬が緩むのを止めることが出来ないわけで。
「僕らしくもないな」
苦笑い交じりに呟いたその言葉は仲間の耳には届かなかったけれど―自分らしくないと分かっていても、どうしても誰にも渡せなかったし、無事に手に入れることが出来たのが嬉しいのはまた事実であって。
早くひずみを抜けて仲間の元へ戻りたいと思っている―こんなに浮かれるなんて自分らしくないなんて言葉を何度も脳裡で繰り返しながら。
そしてひずみを抜けると、一目散にティナの姿を探す…手にしたアクセサリを大事に持ったまま。
前からティナが欲しがっていたものがある。しかし、ショップで手に入れるためにはどうしても材料が揃わなかった。そのための揃わなかった最後の材料、それが今オニオンナイトの手の中にある。だからどうしても、一刻も早くティナに届けたかった…
ティナはいつものように、仲間達と他愛のない話に花を咲かせている。その横顔がこちらを向いて、自分だけに笑顔を向けてくれることを想像する―それだけでオニオンナイトはは胸が逸るのを押さえられない。
「ティナ!」
呼びかけるとティナは視線をオニオンナイトの方に向け、すぐに花が咲くように柔らかな笑顔を浮かべる。
その笑顔に向かって駆け寄ると、オニオンナイトは手にしていたアクセサリをすぐにティナに差し出した。ティナは差し出されたものを見ると小さく笑い、そしてオニオンナイトのほうをじっと見つめている。
「やっぱり、私にくれるために持って帰ってきてくれたの?」
「え?やっぱりって、どういう…」
「さっきヴァンに聞いたの。私が欲しがってるのは知ってたけど君が強引に持って帰っちゃったからあげられないって。それでもしかしたら…と思って」
その言葉を聞いて、オニオンナイトはあんぐりと口を開ける。そして小さな声で呟いていた―余計なことを、と。
ティナを驚かせたかったのに自分が渡すよりも先にネタばらしをされてしまったのだ、そう言いたくなるのも無理はない。ぐっと悔しそうに唇を噛んだオニオンナイトだったが、その兜にティナの手がゆっくりと触れた。
「…ありがとう、凄く嬉しい」
「でも、僕は―」
「ヴァンからこのことを聞いてね、君がこれを持ってきてくれるの凄く楽しみにしてた。もしかして私のためにって、思うだけで凄く嬉しかったんだよ」
その言葉に顔を上げる―ティナの表情は、相も変わらず柔らかな笑顔で。
その表情に、心を支配していた悔しさがゆっくりとほぐされていくのが自分でも分かった。思っていたのとは違ったけれど、ティナが喜んでいるのは間違いないようではあったし。
「そうやって、私のためにって気を使ってくれること…凄く嬉しいんだ。本当に、ありがとう」
ありがとうの言葉と共に向けられた笑顔は、自分で想像していたのとは全く違う感情をオニオンナイトの胸に植えつけていた。
どんな形でも、自分のしたことでティナが笑ってくれる、喜んでくれることがこんなにも嬉しいことなんだと…改めて思い知らされた気がして、オニオンナイトは照れくさそうに視線を反らしていた。