義士から雷光へ






「ライト、何か欲しいものはないか?」

ある日唐突にフリオニールからそんなことを聞かれたものだから、ライトニングのほうは首を捻るより他にない。
だが、そう尋ねたフリオニールの表情は真剣そのもの。そう考えると適当な返事を返すのも憚られてライトニングは腕を組み、首を捻る。
とは言え急に言われて欲しいものがほいほいと思い浮かぶわけもなく―フリオニールの真意を図りかねてそちらに視線を移すことしかできない。
フリオニールはライトニングの答えを待ってか、きらきらとした子供のような視線をライトニングに向けるばかりで結局何故急にそんなことを言い出したのかの答えは見えない。

「急に言われてもな」
「うん、それは分かるんだけどさ。でも何か…ないかな、俺に手に入れられそうなものだったらどんなものだって構わない」

一体どうした風の吹き回しだろう、そんなことを考えながらただ、フリオニールに何と答えればいいのかを思案している。
欲しいものと言われても、武器や防具の類であればフリオニールから個人的に贈ってもらうまでもないし、だからと言って他に何か必要なものがあるだろうかと考えたところで…「この世界で手に入るもの」、と考えても答えは出ない。
困惑するライトニングを、フリオニールはただただ見つめている。その答えを待つかのように。
そこでふと気になって、ライトニングはその視線を跳ね返すかのようにフリオニールの方を真っ直ぐに見つめ返した。

「…一体どういう風の吹き回しなのか、それだけでも教えてくれないか」
「いや、その…大したことじゃないんだ。ただ」

ライトニングの真っ直ぐな問いかけに対して言葉を選ぶかのように、フリオニールは時々口ごもりながら答えを返す―
その表情には微かに照れが浮かんでいる―歯切れが悪いのはそのせいもあるのだろう、などと余計なことを考えながらライトニングはフリオニールの答えを待った。

「なんかもう、ほんとに…君にしてあげられること、って考えたらさ…何も思い浮かばなくて。せめて何かプレゼントくらい、って思っただけなんだけど」
「…なんだ、そんな理由だったのか」
「そんな理由って言い方はないだろ」

何処か拗ねたようにさえ見えるフリオニールがなんだか可笑しくて、ライトニングは無意識に腕を伸ばしてバンダナの上からフリオニールの頭に触れていた。
拗ねた子供を宥めるかのようなその仕草はもしかしたら逆効果かもしれない、などと頭では思いながらも―今のフリオニールがなんだかとてつもなく可愛らしい存在に思えてならなくて。
年下だからなのだろうか、それとも恋愛経験が薄いからなのだろうか、たまにフリオニールは迷走の末にこういった良く分からない行動を取ることがある―そこまで込みで、ライトニングにはフリオニールが愛しいと思っているわけではあるが。
男らしくてしっかりした所だってあるくせに時々こんな子供のような一面を見せるフリオニールを見ていると本当に思う、自分は心からフリオニールを愛しているのだと。
そして、そのときライトニングはふと思いついた。こんなことを言ったらフリオニールは驚くだろうか、そんなことを考えながらその思い付きを言葉にしていく。

「ああ…欲しいものだが。ひとつ思いついた」
「何?」

その言葉に、拗ねていたはずの表情がぱっと明るく輝きライトニングの言葉を待つかのようにきらきらとした瞳が戻ってくる。
きっと、フリオニールは気付いていない。自分のそんな純粋さがライトニングの心をどれだけかき乱すのかを。
ライトニングは腕を伸ばし、フリオニールの後頭部を引き寄せた。そのまま、耳元に囁きかける―

「お前が欲しい」
「なっ…!?」

ちらりと視線を送ると、フリオニールは見た目で分かるほどに真っ赤になっていた。
勿論、その言葉の意味が分からないわけではないだろう。寧ろ、分かっているからこそこうして顔を赤らめている、わけで。

「どんなものだって構わないと言ったのはお前だろう?」
「そ、それはそうだけど…」

ごにょごにょと口ごもるフリオニールがやっぱり愛しくて仕方なくて、ライトニングは無意識のうちにその耳朶にそっと口づけていた。







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