唇:愛情






いつものように一歩先を歩くフリオニールの背中を、いつものようにライトニングは見つめている。
マントが広がっていることを差し引いても自分のそれよりずっと広くて背の高い背中―見慣れているはずなのに、いくら見ていても飽きない。
とても頼もしくて、何よりも愛しいその背中…それでもやっぱり、背中だけでは物足りないのもまた事実。

「フリオニール」

そうしていつものようにその名を呼ぶ…勿論、呼び止めたりしなくてもフリオニールが自分を置いていったりしないことはよく知っているが、それでも今フリオニールの足を止めるにはこれが一番確実で。

「ん?」

いつものように振り返り、ライトニングを真っ直ぐに捕らえる琥珀色の瞳。
二つの視線がぶつかり合ったのと、ライトニングがフリオニールに向かって腕を伸ばしたのとがほぼ同時。
伸ばされた腕はフリオニールの後頭部を捕らえ、そのまま自分の方に引き寄せるとライトニングは軽く爪先立つ。
目を閉じ、顔を近づけ…素早い所作で、フリオニールの唇を奪った。
重なった唇のぬくもりもやっぱりいつもどおり―そのぬくもりに、ライトニングの心は不意に満たされてゆく。
唇を離すとライトニングは今度は耳元に唇を寄せ、小さく囁いた。

「…愛してる、フリオニール」
「きゅ、急にどうしたんだライト…」
「急にどうしたも何も、今更何を照れているんだ」

耳まで赤くなったフリオニールを見ながらライトニングは小さく笑みを零す。
いい加減慣れればいいのに、なんて思いながら…どれだけ愛を深め合ってもまだどこか奥手なところのある恋人―その純情さもまた、ライトニングの心を捉えて離さない。
言われてみれば確かに今のは少し強引だったかもしれない。自分でもそうは思うが、それでも…こんな反応を見せるフリオニールが愛しくて仕方なくて。

「今更って言われたって、その…急だったから」
「つまり予告すればいいんだな」
「そう言う問題でもないんだけど…まぁ、いいか」

そして、未だ微かに頬を紅くしたまま…ライトニングに向けられるのは柔らかな微笑み。
いつもどおりのその笑顔が今のライトニングには一番愛しいもの―何よりも、愛情を傾けられる存在がこうして自分の一番近くにいる。
永遠に続くとすら錯覚してしまいそうなこの戦いの中、ライトニングにとって唯一安らぎを覚えさせる―
愛しい眼差しはライトニングを包むように見つめていたが、それからややあって少しだけ逸らされた。

「それに、ちょっと嬉しかったし」

照れたようにぽつりと呟かれたその言葉を当然ライトニングは聞き逃さなかった、わけで。
ああ、駄目だ。そんな風に言われたら…
ライトニングの中でフリオニールへの愛しさが弾けて溢れ始める。
こんな些細なことでも自分がどれほどフリオニールを愛しているのかとしみじみと思い知らされる―

「フリオニール」
「今度はなんだ?」
「目を閉じろ。今すぐに」
「…予告すればいいって問題でもないってさっき言っただろ」

苦笑いを浮かべながらも素直に目を閉じたフリオニールの頬に手を添え、ライトニングはもう一度小さく背伸びして…ゆっくりと、唇を重ねた。







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