暴君から、魔女へ






窓から月の光が差し込む古城―アルティミシアが支配するその城で。。
自分に背中を向けたまま、それでも寝台から起き上がることをしようとしない皇帝をアルティミシアはじっと見つめている。互いに一糸纏わぬ裸体を無警戒に晒したまま―それでも、その視線は重なり合うことはなく。

「自分から訪ねて来て自分勝手にしたいことだけして―何処まで勝手なのかしら」
「貴様に指図される謂れはない」

はぁ、とひとつ息を吐いてアルティミシアは皇帝の隣に横たわり―その背中に背中を向けたまま目を閉じる。
身勝手な男なのは充分に理解している。愛の言葉のひとつもなく欲望のままに自分を抱き、こうして留まりはするもののアルティミシアの方を見ることなどせずに眠りに落ちる。
いっそ憎めればいいのにと心の奥底で思いながら―ただ支配だけに捕らわれたこの哀れな男からどうしても離れることが出来なくて、それが余計にアルティミシアを苦しめていた。
自分の感情の出発点が同情であっただなどと知られてしまえばそれはそれで、プライドの高い皇帝は怒り狂うであろうことも容易に想像できるからこそ、アルティミシアは余計なことは何も言わない。
ただ、背後で寝息を立て始めた皇帝の存在を確かめるように一度背中を触れ合わせ―

「あまり近づくな、暑いだろう」
「そう思うのなら自分の城へ帰ったらどうなんです」

甘い気分に浸ることなど、この男が相手では許されそうにない。そんなことを考え、アルティミシアは深く深く息を吐いた。考えていても仕方ない。皇帝の側にいたいと願ったのは―道を誤ったのは紛れもなく自分自身なのだから。
そのまま、言葉を放つことなくアルティミシアは目を閉じる。背中にうっすらと感じる皇帝の身体の、その熱に心を焦がされながらも―それを口に出すことは許されないことくらい、アルティミシアはとっくに気がついていた。
激しく求められた身体を支配する甘い疲れに身を委ね、アルティミシアはそのまままどろみに身を委ねようとした―その瞬間に気づく、背後にあった身体が起き上がる気配。自分の城へ帰るつもりだろうかと、少しだけ考える。しかしそれを深く追求することは既にアルティミシアを捕らえ始めている眠りの力が許してくれそうになく。
だが、背中から抱きしめられたのに気づいて―既に眠りに落ちそうになっていたアルティミシアの意識がそこで引き戻される。しかし、それを皇帝に悟られることはないように目を閉じたまま―アルティミシアは自分を抱きしめる腕の強さに身を任せていた。

「…どうせ貴様は信じないと分かってはいる」

背後から聞こえる囁きは―本当に皇帝のものなのだろうか?
いつもの自信ありげな、寧ろ自信以外の何も含まれていないように感じる皇帝の声音とはあまりにも異なったその囁きがアルティミシアの心を激しく掴む。
だがそれでも、目を覚ましていることを悟られてはならない―まるで少女に戻ったかのように心臓が早鐘を打つのを悟られないよう、アルティミシアは目を閉じ息を殺したまま皇帝の言葉が続くのを待った。

「私は貴様を支配するより他に術を持たない―だが、それでも私は」

アルティミシアの背中に身を委ねるように。まるで幼い子供がそうするかのようにしっかりとアルティミシアを抱きすくめたまま…吐息にかき消されるほどの微かな囁きがアルティミシアの耳に届いた。

「愛している、アルティミシア」

何も言葉に出来ないまま、アルティミシアは皇帝の腕に抱きすくめられている…その腕を振り解くことなど、アルティミシアに出来るわけがない。
己の力でもなんでもなく止められてしまった時間が動き始めたのは、背後の皇帝が規則的な寝息を立て始めたその瞬間。

「マティウス…本当に、可哀想な男」

その呟きはきっと、既に眠りに落ちた皇帝の耳に届くことはないのだろう―







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