忌子から、勇者へ






いつものように旅を続ける戦士達にふらりと同行し、いつものようにひずみの解放を手伝って、そしていつものようにまたひとり離れていく―プリッシュは今日もそうするつもりだった。
だが、今日はそう言うわけには行かない―ひずみの中でウォーリアオブライトが気を失ってしまっていたのだ。

「とりあえず、ポーションかなんかもらってきてくれよ。俺がこいつの様子見てっからさ」

共にいた仲間にそう告げ、彼らが去ったのを確かめるとプリッシュは倒れたウォーリアオブライトの横に胡坐をかいて座り込む。
苦しそうに呼吸を乱すウォーリアオブライトをプリッシュはじっと見つめている―額に浮かんだ汗が余計にその表情を苦しそうなものに見せている気がして、プリッシュは袖でそっとその汗を拭った。
そしてそのまま、間近でその顔を見つめる―初めて出会った頃に比べれば随分と強くなった気もするし、それにあの頃に比べれば物事の考え方もしっかりしているようだしはっきりと話すようにもなっている。だがどこか放っておけないのは変わらない。プリッシュはなんとなくそんなことを考えていた。

「いや、違うよな…変わってるんだ。こいつも、俺も」

放っておけない理由、最初はただ自分が神々の戦いに引き込んだ責任感―ただそれだけの理由だった。
だが、かつての戦いの最中共にいることによって、いつの間にか自分の側には全く違う感情が芽生えていた。それを認めることすら、プリッシュには絶対に出来なかったけれど。
それに、彼の方だって―自分が「消えた」戦いから後、こうして何の因果か再びこの世界で甦るまでの間に沢山の出会いと別れを超え、随分と強くなった―そうして変わった彼を目にしても、変わることがなかったのはプリッシュの中にある秘められた感情。

「…お前が強くなったのはいいよ、けど俺は…変わっちまってよかったのかな」

いまだ苦しそうに呼吸をしているウォーリアオブライトの頬に、そっと掌で触れる。
いつまで経っても気づかれることがないのは、自分がこの想いを隠し通すと決めたから―そしてそもそも、彼の側がそれに気づけるほどプリッシュのことを見ていないから。

「バッカだよなぁ、俺。何にも気づかなきゃ良かったのに」

自分の気持ちにも、そして―彼の瞳が決して自分を映さないことにも、気づかなければこうして人知れず思い悩むこともなかった。
だが、気づいてしまった以上気づかない振りをし続けることなどプリッシュにはできない―誤魔化し続けることが出来るほど自分は器用ではない、そのくらいのことはプリッシュだって気づいている。

「…安心しろよ、お前に知らせてそれで苦しめたりするつもりはないから」

強がりだと言われたらそうかもしれない、だがそれでも彼が自分の存在に思い悩むくらいならこの想いは隠し通したほうがいい。
だがそれでも、今は―彼にこの言葉が届かない今だけは。

「俺…好きなんだ、お前が」

さぁっと吹いた風がプリッシュの言葉を静かにかき消す。
いっそその方が良かった。口にしたその言葉を、彼が聞いていないとは言えその場所にとどめて欲しくなかったから―どうせ、叶うはずのない想いだと分かっているから。
遠くから聞こえてくる仲間達の足音に、何故か助けられたような気がしてプリッシュは立ち上がり倒れたままのウォーリアオブライトに背中を向ける。
―まるで、自分の想いから再び目を逸らすかのように。







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