夢想から、召喚士へ






ゆっくりと太陽が沈みかける頃、ティーダとユウナはふたりで海岸を歩いていた。
ふたりきりになりたい、なんてわがままをユウナが言い出すのはとても珍しいことだとティーダも分かっているから、ただ…歩いていくユウナの一歩後ろに続く形でのんびりと歩いている。
それでもやはり、こんな風にユウナから一緒にいたいと言い出すことはあまりないからかそれがティーダには何故か引っかかっていたりもして。

「やっぱ…珍しいよな」
「何が?」
「ユウナが自分から、一緒にいたいって言い出すとか」

頭の後ろで手を組んだ姿勢のまま、一歩前を歩いていたユウナを見ていたティーダ。その視線には当然気づいているのだろう、ユウナは振り返ると笑顔のままティーダをじっと見つめていた。
その笑顔は何処までもいつものユウナで、ティーダはそこでユウナの行動を微かにとは言え不思議に思った自分が途端に恥ずかしくなる。
つい頬を掻いた自分を見ていたのか、ユウナは口元に手を当てて小さくくすくすと笑みを零す。

「わたしだって、そんな気分の時はあるよ」
「そか…なんだろ、でもなんか…嬉しいな、こう言うの」

照れくさくて言葉もなんだかいつもよりぎこちない気がしてならない、けれど。
それでもティーダは腕を伸ばし、一歩前にいたユウナを後ろから抱きしめた。その存在を確かめるかのように。
―どうして、思い出してしまったんだろう。忘れたままでいることが出来なかったんだろう。
例え元の世界に還ったとしても自分はユウナの側にいることは叶わない―結局は消えてしまう存在だと言うことを、いっそ思い出さなければよかったと思いながらしっかりとユウナを抱きしめる。

「ティーダ…」
「ごめん、暫くこうさせてて」

涙がこぼれそうになるのを、唇を噛み締めてぐっと堪える。
ないとは思いたいが、こんな姿をジェクトに見られたらまた笑われてしまうだろう。それに、この世界にいる間はもう泣かない…ティーダはそう思っていた。
それでも、自然と身体が震えている事に気づいたのだろうか―ユウナの手がそっと、彼女の身体を抱きしめる腕に触れた。
柔らかなその手の感触はティーダを力づけているように思えて―離れてしまうことはユウナだって分かっているし、自惚れでなければユウナだってそれを辛いと思ってくれている―それでも気丈に振る舞うユウナに、これ以上弱みは見せられない。
思いなおしたティーダはもう一度しっかりとユウナの身体を抱きしめる。確かにそこにあるユウナの存在と、そのユウナを抱きしめることが出来る自分の存在を確かめ―ティーダはぽつりと呟いていた。

「ユウナ、オレさ」
「どうしたの?」
「…すげー好きだ、ユウナのこと」

だから、先のことなんて―元の世界のことなんて今は考えたくない。
分かっていても、こうしてもう一度巡り会えたことは確かなのだから、せめて今は―

「だから、まだ暫くは一緒にいさせて欲しい…ユウナを守らせて欲しい」
「…ありがとう…ティーダ」

ユウナが声を詰まらせたのは聞こえない振りをした―だって、ユウナも気づかない振りをして―言葉じゃなくてただ、優しさだけを向けてくれたから。
だからこそ、ティーダはもう一度しっかりとユウナを抱きしめていた。この世界にいる間はユウナを守り抜くと、その決意を自分の中で新たにするように。







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