兵士から、拳士へ






「ダメだよ、クラウド…こんなところじゃ」

唐突に後ろから抱きしめられて、形だけは抵抗してみるものの…それが無駄なのはティファにだってよく分かっている。
大体、こんな風に一方的に求められるのはクラウドが何かに縋りたいと思っている時だけだと言うことだって十二分に承知しているのだから…本気で抵抗することなど出来るわけがない。
だがその場所は野営地からさほど離れてはおらず、下手をすれば仲間達に見つかってしまうかもしれない。ティファにはその懸念があった。
しかしそんな微かな抵抗も虚しく、クラウドの骨張った指がするりとティファのチューブトップに滑り込む…幾度も身体を重ね、自分の全てを知り尽くしたクラウドの手にかかれば自分にはもう抵抗できないことをティファはよく知っている。
…だが、このまま流れに任せクラウドに身を委ねることは今のティファにはできない。クラウドの手首を掴むと、首だけ動かしてクラウドの方へ真っ直ぐに視線を送った。

「クラウド…何があったの?」
「別に…何も」
「…嘘だ」

一体どれほどの時間を共に過ごしたと思っているのだろうか。
元いた世界の記憶は薄くても、クラウドの記憶だけは取り戻した自分がどれほどクラウドを見ていたか―彼は分かっているのだろうか?
手首を掴んだまま身体の向きを変え、クラウドとしっかり向かい合う。真っ直ぐにクラウドを捕らえるティファの視線から、クラウドの視線は逃げて―その目を見ようとはしない。

「クラウド…私には全て話してくれていいんだよ」

クラウドの返事はない。
だが、ティファは諦めることはなく…じっとクラウドを見つめている。答えを出すのを待つように。
沈黙に支配されたまま、ただクラウドを見つめるティファと相変わらず視線を合わせようとしないクラウド―やがて根負けしたのか、クラウドは小さな声でぽつりと呟いた。

「…セフィロスが」
「セフィロス…?」
「あいつはこの世界に再び喚ばれた意味を探している。その為に…俺を呼び寄せる為に仲間が傷つけられた」

クラウドの言葉に、ティファはひとつ思い出していた。前の夜に、クラウドと共にひずみに向かった仲間が随分傷ついて帰ってきたことを。
イミテーションが強くて、なんて笑ってはいたが、その裏にあったものの真意を知ってティファは言葉を失う―

「俺は…何も出来ないのか?」
「そんなことはないし、仮にそうだとしても」

ティファは自然と、クラウドの髪に手を添えていた。固いその感触を確かめ、微かに笑みを浮かべる。

「クラウドが強くたって弱くたって、私はクラウドの味方だよ」
「ティファ…」

名を呼ばれ、ティファはしっかりと頷いてみせる。言葉にならないクラウドの悩みを包み込むことが出来るとしたら自分だけだと―そんなことを考えながら。
視線を逸らしたままだったクラウドがそこで真っ直ぐにティファを見つめる。ぶつかり合った視線、ふたりの間にあるのは…強い信頼。

「セフィロスくらいぶっ飛ばしてやったらいいんだよ。私も協力するし」
「随分簡単に言うな…」

ひとつ息を吐いて、クラウドは一度しっかりとティファを見つめた。そしてそのまま腕を伸ばし、しっかりとティファを抱きしめる。
先程までの、何かに縋ろうとしていたクラウドではなく…そこにあるティファの存在を確かめるかのようにその腕は力強い。

「…お前がいてよかった」
「大袈裟だよ、クラウド」

くすくすと笑いながら、クラウドの背中に腕を回す。それに呼応するかのように自分を抱きしめるクラウドの腕が強くなる―

「愛してる」

囁かれた言葉にティファはしっかりと頷き、自分を抱きしめる腕の強さに身を委ねた…








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