少年から、少女へ






野営地から程近いショップまで買い物を頼まれ、目的のものを全て揃えたオニオンナイトとティナはのんびりと歩きながら野営地を目指していた。
話しているのは、うすらぼんやりとしているながらも残された記憶のこと。

「私は…力だけを望まれていた。そんな記憶があるの」

話のきっかけは確か、ティナが悲しそうに呟いたその言葉。その表情はオニオンナイトが見たことのないような悲しみを内包している。
その答えをどう言葉にしていいのか分からなくて、オニオンナイトはただティナの悲しそうな横顔を見上げているだけで。
彼自身は元の世界の記憶を殆どと言っていいほど失っている。自分の名前すら思い出せてはいない―だがだからこそ、元の世界での記憶に縛られることなくこの世界でも戦い抜いていけるのだとも思っていた。
元の世界の記憶―他の仲間のように愛する人の、心の支えとなりうる記憶ならばともかく、何かを失ったり苦しんだりしただけの記憶に捕われたりは自分はしない…だが、目の前のティナはそうではない。
そんなティナに何が言えるのか。自分には年齢の若さを補ってあまりある知能があると自負しているオニオンナイトではあったが、そんなときにかけるべき言葉がどうしても思い浮かばなくて。

「…ごめんね、困らせるつもりはなかったの」

そう言葉にしたティナは心配そうに自分を見ていて―ティナの言葉とは逆に自分がティナを困らせてしまったような気がして、オニオンナイトは小さく首を横に振った。

「ティナは何も悪くないよ。僕が今のティナにあげられる言葉が分からないだけだから」

しかし、黙り込んでしまったティナにそのまま何も言わないなんてことはオニオンナイトにはできない。
仮にもナイト―「騎士」の称号を背負っている以上、思い悩むティナを放ってはおけないし、それに…守ると決めた、から。
それは、ティナを襲い苦しめる心の傷からも。
そう決めた以上、黙っているなんてことはオニオンナイトにはできない―

「たとえそうだとしてもさ」

考えろ、考えるんだ。
自分に一生懸命にそう訴えながら、オニオンナイトはティナに語りかける。それが正解かどうかなんて、今のオニオンナイトにはまだ分からないけれど。

「力だけじゃない…ティナ自身の存在を望んで、ティナ自身の存在を必要としてくれる人は必ずいるよ。この世界にいるんだから元の世界にいないはずがない」
「…そう、かな」
「そうだよ、だって僕が…」

言いかけて、オニオンナイトは口を閉ざした。
嘘など全くない、だがそれを口に出すのは何だかとても恥ずかしいことのような気がして。
ティナは不思議そうな目でオニオンナイトを見つめている。言葉の途中で口を閉ざした彼の、その言葉の続きを待っているかのように。
今言うべき言葉なのか…今度はそんなことを考えながらティナを見遣る。その瞳は相変わらずオニオンナイトを真っ直ぐに捕らえている―
その視線に触れてしまうともう、考えているのが何だか馬鹿馬鹿しくも思えてきて。

「僕が…そうなんだから」
「えっ?」
「力とか魔法とか関係ない。僕はティナがティナだから、ティナ・ブランフォードだから…ティナが大切だしティナに近くにいてほしい…し、それに」

一気に言ってしまってから気恥ずかしさがオニオンナイトを支配しはじめる。
だが、その気恥ずかしさよりも今オニオンナイトを強く突き動かすのは、たったひとつ心の中にはっきりと存在する答え。

「ティナが、大好きなんだ」

その声は、心の奥の…想いの強さに反してとても弱く聞こえた、けれど。
それでも確かに、先程までは悲しそうな表情を浮かべていたティナは確かに微笑みを浮かべていて。

「ありがとう…君はいつもそうやって、私に強さをくれる」

微笑みを浮かべたティナは、手を伸ばしてそっとオニオンナイトの手を握った。
さっきの言葉も繋がれた手も、なんだか恥ずかしくて―ティナをはっきりと見ることは出来なかったけれど。
彼は知っているから。自分の気持ちに従えば道が見えることを。
ティナのことが好きだと言う歪みのない想いに従えばきっと、どんな言葉よりもそれがティナを笑顔に近づけるのだと分かっているから…言葉は返さないまま、繋がれた手をきつく握り返していた。







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