雷光から、義士へ
「ライト…あのさ」
自分に背を向けた状態で武器のメンテナンスに勤しんでいたライトニングに恐る恐るフリオニールが声をかけると、ライトニングはすぐに顔を上げてフリオニールの方を見遣り穏やかな笑みを浮かべた。
きっとこうして、彼女のこんな柔らかな表情を一番近くで見る事が許されているのは自分なのだ―今は。
それは頭では分かっているが、時々フリオニールは考えることがあった。それは何の根拠もない、ただ漠然とした不安でしかなかったが。
「ライトが元の世界に帰ったら…君は俺の事を忘れてしまうのかな」
「急に何を言い出すんだ」
「あ…いや、その」
眉根を寄せたライトニングの表情に、フリオニールは慌てて首を横に振る。別にライトニングに不快な思いをさせるつもりはなかったのだ。
それを見てとったのか、ライトニングはひとつ大きく息を吐く。
「お前が私の事を一度忘れたのは『浄化』を受けたからだろう。現にお前は他の仲間の事は覚えていたじゃないか」
「…俺が言いたいのはそう言うことじゃないんだ」
これを言うとライトニングは気分を更に害するかもしれない―そう思いながらも、ここで「やっぱりいい」と話を切り上げることなどライトニングが許してくれないだろうこともフリオニールはちゃんと承知している。
話を続けるフリオニールの声は自分でも驚くほど弱く、自信なさそうに発されていた。
「君が元の世界に―俺がいない世界に戻って、俺じゃない誰かを好きになって、そしたら俺は…忘れられてしまうのかな、って」
「それはお互い様じゃないのか?」
ライトニングの声は未だどこか不機嫌そうに聞こえる。勿論、ライトニングの言うことだって一理あるのは分かっているから…フリオニールはその言葉に答える事が出来ない。
「そうなんだけど…でも」
「でもも何もない。永遠がないのは初めから分かっていただろう…それでも私は…」
一度目を伏せたライトニングはすぐに顔を上げ、真っ直ぐにフリオニールを見据える。
その視線から目を逸らすことなんて、今のフリオニールに出来るわけがなくて。
「今の私は間違いなくお前を愛している…未来の事まで考える余裕がないほどに、な」
自信ありげな表情でそう言い切ったライトニングが眩しい。彼女はいつもこうやって、自分が不安を抱えた時には手を差し延べてくれる。
ライトニングがいるからこそ思える、自分はもっと強くならなくてはいけないと…
「そうだよな…ごめん、変なこと言って」
「まったくだ。お前はもう少し自信を持て…私に間違いなく愛されていると言う自信を、な」
いつもの強気なその言葉に、フリオニールの表情には自然と笑みが浮かぶ。
未来のライトニングのそばに自分がいないこと、未来の自分の隣にライトニングがいないことなどとっくに分かっている。だが、だからこそ…側にいることを許されている今はただ、誰よりライトニングに愛されて…そして誰よりもライトニングを愛していたい。その想いを新たにして。
「それに、未来の私が誰を愛したとしても…初めて愛したのがお前であることは変わりようがない事実、だからな」
真っ直ぐに自分に向けられたライトニングの言葉に、フリオニールは自然と大きく頷いていた。そして、言いようのない幸せをきつく心の奥で噛み締める。
それは自分も同じこと―生まれて初めてここまで愛した存在はライトニングしかいなくて、それは絶対に変わらない。自分にとってライトニングが大きな存在であるようにライトニングもまた自分をそう思ってくれているのだから―