本当に、敵わない






戦いが続く日々、その最中…身体だけでなく心も傷を受け疲れ果ててしまうことがある。
この戦いに意味などあるのだろうかと、不意に思って戦い続けることが辛くなってしまうことがある。
それはきっとフリオニールだけではないのだろう。自分だけが辛いなどと言うつもりはフリオニールには毛頭ない。
でもそれでも―時々落ち込んでしまうことがあるのは仕方のないことなのかもしれなくて。

「別にお前が気に病むことじゃないだろう」
「だけど…」

傷の手当てをしているライトニングの言葉に、フリオニールは唇を噛んで俯く。
座ったまま腕につけられた傷に包帯を巻いているライトニングはそんなフリオニールのほうを呆れたような表情で見上げていた。

「ライトがこんなに傷ついてるのに、俺…何も出来なかった」
「何も出来なかったのはお前だけじゃないんだからお前が気に病むことじゃない。何度言わせるんだ」
「でも」

決して浅いとは言えない傷。しかも良くないことにこんな時に限ってポーションを切らしてしまっている。
今はうっすらと血を滲ませた傷は、いくら手当てをしたとは言えきっとその素肌に消えない傷痕を刻んでしまうことだろう。

「でももだけどもない。私は戦士だ、多少の傷などどうと言うことはない。お前だってそうだろう」
「それはそうだけど、でも」
「だからだな…」

相変わらず呆れたような表情のまま、ライトニングがひとつ息を吐いた。
そんなことを言っているライトニングだってフリオニールが怪我をしたら大慌てするしもっと自分を大事にしろとか説教を始めるのに、立場が逆になるとこれなのだから存外お互い様なのかもしれない。
フリオニールのほうも頭でそれは分かっていてもそれに感情がついてくるかと言うとそれはまた別の話で。
自分を見上げたままのライトニングに真っ直ぐ視線を送る―自然と唇から滑り出た言葉がきっと、一番偽らざるフリオニールの気持ち。

「俺は…自分が傷つくよりも、君が傷つくのを見るほうが辛い」
「それならばひとつ言わせてもらうが」

もう一度溜め息をついたライトニング―腕に包帯を巻き終えたらしく、そのまま立ち上がるとフリオニールの頬を両手で挟んで自分の方を真っ直ぐに向かせる。
表情に浮かぶのは呆れと怒りと…そして、微かな優しさ。
顔を固定されていることで物理的にも、そしてその複雑な表情のせいで精神的にも…今のフリオニールは、ライトニングから目を離すことが出来なくて。

「私はそうやって、私のことでお前が落ち込んだり悩んだりしている姿を見るのが一番辛い」

頬を挟まれた姿勢のまま、ライトニングが微かに背伸びするのが見える…それだけで予想がついて目を閉じると、想像通りライトニングの柔らかな唇がそっとフリオニールの唇に押し当てられた。
一瞬だけ触れ合った唇が離れ、目を開くと目の前のライトニングの唇が更に言葉を紡ぎ出した。

「私はお前にとっての枷にはなりたくないんだ。お前を助け、支えられる存在になるならともかく。だから私のことであまり思いつめるな」
「…そう言われちゃうと俺、もう反論できないだろ」

どうしてライトニングは、こうやって…フリオニールの悩みを消し去るのが上手いのだろうか。
言い返した言葉にも余裕のある表情で微笑んでいるライトニングに対して浮かぶのは、愛しさとそしてほんの少しの悔しさと。

「ああ、こう言えばお前はもう反論しないだろうなと分かっていて言ったからな」
「…敵わないな、ほんと」

自分の全てを見透かすようですらある恋人のその微笑みに、フリオニールはひとつ息を吐いて…そして、傷に響かないようにそっと、ライトニングの身体を抱きしめていた。








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