「私が泣くわけないだろう」






今日も今日とてひずみに向かった仲間達を出迎えた彼らの目の前にあったのは、イミテーションとの戦いに負けたのが悔しかったのか―傷だらけのまま、唇を噛み締めぽろぽろと涙をこぼすオニオンナイトの姿。
その隣でティナが慰めるようにその肩にそっと手を添えている。

「泣かないで…仕方ないよ、あのイミテーションは私たちよりずっと強かったんだから」
「でも、僕…勝てると思って油断した隙に攻撃されるなんて、なんか…自分が情けなくて…」

下手にプライドが高いだけに、敗北の悔しさは一入なのだろう。
ただ今は彼の隣にはティナがついている。自分たちが何か言わなくとも、きっとティナの言葉が彼の心の傷を癒すだろうと…仲間達は一度、彼らの方から遠ざかった。

「そう言や、ちょっと気になったんだけどさ」
「なんだ?」
「ライトは泣いたりするのかなーって」

一度オニオンナイト達の方を見遣ってそう呟いたバッツに、言われた側のフリオニールは軽く首をかしげる。
バッツはいつもの屈託のない笑顔をフリオニールに向けながら、更に話を続ける…その表情がどことなく楽しそうに見えるのは何故だろうか。

「ほら、ライトってさ。俺たちから見たらいつも強くてしゃんとしてて、絶対泣いたりしなさそうなイメージがあるだろ?でももしかしたらフリオニールはそうじゃないライトを見てるのかなぁって」
「人が目を離した隙に一体何の話をしている」

一方的に話し続けるバッツと、どう答えるべきかと逡巡していたフリオニールの背後から聞こえてきた声―まさに、噂をすれば影と言ったところだろうか。
振り返った2人の視界に映るライトニングは腕を組んだままいつもの如く冷静な表情を浮かべている…
怒ることはあるし、楽しいことがあれば笑顔を見せることはあるが他の女性陣に比べれば確かに感情の発露が薄いライトニングを見て、なるほどこの調子ではバッツが「泣いたりするのか」と気にするのも無理はないだろう…とフリオニールはふと思った。

「えー、だってほら気になるだろ?」
「そんな下らないことを気にする暇があるならもっと他の事を考えたらどうだ」

ライトニングはそれだけ言うとすたすたと2人を追い抜いて歩いて行ってしまう…だが、立ち去り際に振り返り、バッツのほうを真っ直ぐに見た。
そのまま、はっきりと。何の躊躇いもなくライトニングは口を開いて一言だけ言い放った。

「私が泣くわけないだろう」

言い切った後再び踵を返すまでの短い間に、ライトニングがかすかな微笑をフリオニールに対して向けたことに…果たしてバッツは気づいただろうか?
その笑顔の意味はフリオニールにははっきり分かっている―黙っていろ、きっとそう言いたかったんだろう。
今、ライトニングははっきりとバッツに嘘をついた。そのことを言うなと、ライトニングはそう言いたかったのだとフリオニールには伝わっていた。

「ちぇ、なんかつまんないな」
「つまんないって言い方はないだろ?」

誤魔化すように小さく笑い、フリオニールはそのまま少し前を歩くライトニングを追うように歩幅を上げた。
ちゃんと口裏を合わせておいたから、そう伝える為に。
…そう。フリオニールはライトニングの涙を見たことがあったから。
ライトニングの全てを忘れていたフリオニールが奇跡的にその記憶を取り戻し、そして再び愛していると告げた…そのときにライトニングの頬を伝った涙のことをフリオニールはきっと忘れることはできなくて。
でもそれは誰にも言わなくていい、フリオニールははっきりとそう思っていた。
それはきっとずっと、この先…再びこの世界から離れる日が来るまでの間自分とライトニングの2人だけの秘密にしておきたかった、から。







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