「押してだめなら更に押す!」
「そのくらい構わないだろう、この前のひずみのイミテーションはそれなりにギルを持っていたし今は予算にはそれなりに余裕があるんじゃないのか」
「余裕がないわけではないが、しかし他にも買わなければならないものは沢山ある。それを考えるとその値段はすぐには出せないな」
ライトニングをちらりと一瞥し、ウォーリアオブライトはにべもなく言い放った。
それがいつもの彼だといえばそうなのかもしれなかったが、それでもライトニングは引き下がらない…遠巻きにその様子を眺めているのはフリオニールとジタン。
「なあフリオニール、ライトは何をあんなに必死になってるんだ?」
「…こないだ、ライトを庇って俺がこの辺に怪我したことがあっただろ」
この辺、とフリオニールはこめかみの辺りを軽く指差してみせる。そこには確かに、充分に薄らいでいるがかすかな傷痕が残っている。
ジタンもそれで思い当たったのか、ああ、と短く相槌を打ってフリオニールを見上げている。話の続きを待つように。
「別に大したことじゃないんだけど、流石に頭に、それも血が出るほどの怪我したってのでライトが流石に動揺しちゃってさ…バンダナと別に何か防具つけた方が良くないかって言われて」
「おーおー、愛されてるねーお前」
冷やかすようなジタンの口調に、フリオニールは短く「からかうなよ」とだけ諌めてから更に話を続ける。
その視線は、ウォーリアオブライトに対して更に交渉を続けるライトニングのほうを捕らえているまま。無論ジタンだって今更それに対してどうこう言うことはない、それは分かっているから。
「でも、ライトがいいのがあるって見つけてきた防具を買いたいってあの人に申し出たら高いから駄目だって断られたらしい」
「それでああやって熱心に説得してるわけだな。しかし…あいつを説得しようって、ライトも無茶するな」
それも愛ゆえかね、なんてジタンの呟きは聞こえない振りをして、それでもフリオニールはライトニングをじっと見守っている。
その表情には、なかなか首を縦に振らないウォーリアオブライトに対しての苛立ちが浮かんできている…もういいよ、と言いたくなるが今のライトニングにわざわざそれを言いに行くのもなんだか憚られて。
しかしライトニングの健闘も虚しくというかなんというか…ウォーリアオブライトはとにかく駄目なものは駄目だと一言言い放ってその場を去っていった。
どこか悔しそうにすら見えるそのライトニングをただ見守っていることしか出来ないフリオニールだったが、そこでジタンに軽く背中を叩かれる。
言葉はないがそれでもジタンの言いたいことは分かる…行ってやれ、と。背中を叩いた掌からは確かにその言葉を感じて、フリオニールはライトニングに歩み寄った。
「ライト、あのさ」
「…あの石頭」
短くそう斬って捨てたライトニングの表情にはやはり苛立ちが浮かんでいる…確かにライトニングとウォーリアオブライトはあまりそりが合わないようだと言うことには気づいていたがここまではっきりと毒づかれてしまうと…
フリオニールはライトニングのことは好きだがそれはそれとしてウォーリアオブライトのことを尊敬しているし、その2人がこの調子ではフリオニールのほうも返す言葉に困ってしまう、わけで。
「まぁその、俺はそんなライトに心配されなきゃいけないほど弱いわけじゃないしさ。防具くらいならなくてもなんとも…」
「…それでは私が納得できないんだ。お前が私を庇って怪我をしたんだぞ、そんなことが二度とあってたまるか」
短くそう言い放つとライトニングはくるりと踵を返し歩き出した。
「ライト…どこ行くんだ?」
「押してだめなら更に押す!」
それだけ言い切るとライトニングはウォーリアオブライトが去って行った方向に向かって歩幅を上げて歩き始めていた。
「…あ、ありがと…う…?」
多分この後またウォーリアオブライトと口論になるのが目に見えているだけになんだか素直に礼を言うのもおかしな気がして、フリオニールはただそのライトニングの背中を見送るだけであった。