「そのくらい1人で出来る」






戦っていればいろんなことが起こる。そもそも、戦いの舞台となる場所だって様々なのだからそれは当然の話。
そしてその日起こったのは、イミテーションの攻撃に強かに打たれ吹き飛ばされたライトニングのマントが岩場に引っかかって外れてしまうという、事件と呼ぶほど大したことでもない出来事ではあった…が。
ライトニングの服の構造上、マントを付け直すには一度アウターを脱ぐ必要があるわけで。
中にきちんと服を着込んでいるとは言え、流石に仲間達の前…それもひずみの中でアウターを脱ぐと言うことに流石に躊躇いがあって、ライトニングはどうにか回収したマントを片手にどうしたものかとひとり思案していた。
アウターを脱がずにマントをつけてみようかと試みてはみるものの、腕側を固定するのは比較的容易だが背中側を固定するのはなかなかに困難を極める。
と言うより片手でマントを固定したままもう片方の手でマントを服に装着するのが難しい…と言うよりほぼ不可能ではないだろうかと考えてしまう。
別にライトニングはそんなに身体が固いほうではないのだが、それでもこの姿勢を続けていると肩がおかしくなるのではないかとふと考えながらそれでも懸命にマントを装着しようと悪戦苦闘している…そろそろ右の二の腕が攣りそうになった頃、そのライトニングの様子に気づいたのかフリオニールが近づいてきた。

「何してるんだ、ライト」
「見たら分かるだろう、マントが外れたんだ」
「…いや、無理しなくていいよ…辛いだろ、この体勢」

そう言うとフリオニールはライトニングの肩にごくごく当たり前のように触れた。そのまま、未だに固定できていないマントの片側に手を添える…
反射的にライトニングは身体を捻り、フリオニールの方を向き直る…と言うより、フリオニールの手が届かない方向に背中を向けなおす、と言った方が正しいだろうか。
しっかりとフリオニールを見上げたまま、ライトニングははっきりと一言。

「そのくらい1人で出来る」
「…いや、でも…」

言い返そうとしたフリオニールの言葉がそれ以上続かないのはライトニングの語気に押されたせいだろうか。
そんなことを考えながらライトニングは再び自分の背中に両腕を回す、が…それでもやはりマントをうまく服に装着することが出来なくて。
その自分を見ているフリオニールからはふいと目を反らし、ライトニングは再び終わりの見えない悪戦苦闘を始める…が。

「なあ、俺やっぱり手伝うよ」
「…だが…」
「絶対長い時間そんな体勢取ってたら肩壊しそうだから。無理しなくていいって、ライト」

そう言うと当たり前のようにフリオニールはライトニングの背後に回り、ものの数秒で今まで十数分に渡ってライトニングが悪戦苦闘していたマントをあっさりとその服に装着してのけた。
そして再びライトニングの正面に戻ってきたフリオニールはにっこりと笑顔を向ける―その笑顔から、ライトニングは拗ねたように目をそらした。
目をそらしたライトニングを真っ直ぐ見つめるフリオニールの目が、どこか心配そうだったことには当然フリオニールを見ていないライトニングは気づいていない。

「…何かお気に召さなかったか?」
「なんだかお前に子ども扱いされたような気がした」

気に入らなかったのは多分そこなのだ。普段は自分より子供っぽいと思っているフリオニールなのに、不意に頼もしい一面を見せる…勿論マント程度のくだらないことでなく、普段からそうなのだが。
だがこんな時に、あまり格好のいい姿でない時にそんな一面を見せられると…意地を張っている自分が馬鹿らしく思えてしまって。考えてみればただの八つ当たりなのかもしれない…
ライトニングがぽつりと呟いた言葉にフリオニールは小さく笑う。

「…笑うな」

短く言い放ったその一言の影に、ほんの少しだけ隠された乙女心…鈍感なフリオニールはきっと、気づいてはいないだろう。







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