Chapter/13-3/4-






「…ヴァン、会ったことがあるかもしれないらしいっスよ。これから会いに行こうとしてるヤツに」

一瞬漂った不穏な空気を吹き飛ばそうとするかのように、ティーダがそう付け加える。
その言葉にプリッシュは不思議そうに首を捻り、しかしすぐに思いなおしたのかもう一度前を向いて歩き始めた。

「外に出てきてたのか?あいつ」
「いや、オレがここに迷い込んだことがある…多分。なんか、はっきりとは覚えてないけど見覚えがあるんだ」
「…ひずみは次元の狭間をゆがめた時に生まれたものだって博士が言ってたからな…本来ならこの先は戦いとは切り離された次元の狭間の奥底、お前らが迷い込める場所じゃねえはずなんだ。でも」
「何らかの理由でヴァンはそこに迷い込んでしまったし、私たちもこうしてここにやってくることが出来るようになっている…と言うこと、ですよね」

プリッシュが誰に語りかけるでもなくぽつりぽつりと繋いでいた言葉を拾ったように、ユウナが問いかける―プリッシュは一度頷きはしたものの、その表情はどこか釈然としない。

「コスモスとカオスの戦いは終わってんのに俺たちがここにいるって言う時点でまた次元の狭間が歪んでんだろうけど俺もよくわかんねえ」
「…我々はただ、再びこの世界に集められた理由を探る為にひずみを解放しているだけだったが…ここは次元の狭間に通じている可能性がある、と言うことか」

難しい顔をしたままウォーリアオブライトが呟いたきり、そこから誰も言葉を発することはない。
ただ、行く手を遮るイミテーションを壊し…その道が正しいのか否かすら分からないまま足を進め続けるだけ。
以前にヴァンがここを訪れた時は「迷い込んだ」と言うのもなんとなく理解の出来る話ではある―いくら進めども、同じような光景がひたすら続いているだけ。
5人の表情には疲れが浮かび始める。普段そんなことを口にすることも素振りを見せることも少ないティーダの表情にさえ疲れの色がにじんでいるのだから相当―なのかもしれなかった。
だからこそ、ただひたすらに続く道の先に広く開けた―とは言え、今までと比べての話で決して広々としているわけではない空間にたどり着く。
どこか禍々しい空気を纏ったその場所は、たとえて言うのならば「地獄」と呼ぶのに相応しいのかもしれなかった。
そしてその「地獄」にぽつりとたたずんでいるのは重厚な鎧を纏ったひとりの男。

「…やっぱり、あいつだ」

呟かれたヴァンの言葉に、全員がそちらを見た。
先ほどから気にかけていたことが間違っていなかった、それを実感した為か―ヴァンはそのまま、他の仲間の言葉も聞かずに男のほうへと駆け寄っていった。
それを追ってプリッシュも走り始める。取り残される形になった3人は互いの顔を見合わせていたが…勢いよく飛び出したヴァンとプリッシュの背中をもう一度見遣り、現状自分たちが言うことはないとばかりに黙ったまま頷きあった。

「迷い込んできたわけではなさそうだな」
「ああ。俺はあんたに話があってここに来たんだ―ジャッジ・ガブラス」

真っ直ぐにガブラスを見上げるプリッシュ、初めて名前を知ったのかそのプリッシュとガブラスを交互に見遣っているヴァン。そしてその2人の視線に晒されながらも黙ったまま口を開かないガブラス―
一瞬だけ走った沈黙はすぐにプリッシュによって破られることになる。

「カオスの戦士が世界征服しようとしてんだ。俺たちはそれを止めなきゃいけない…その為にひとりでも多くの助けが必要なんだよ。あんたにも手を貸して―」
「断る」

プリッシュが全てを言い終わるよりも先に、ガブラスは短くそう言い放った。
予想は出来ていたものの、あまりにもあっさりとしたその答え…無表情のままやり取りを眺めているウォーリアオブライトも、何事か言いたいのに何を言えばいいのか分からず唇を噛んでいるティーダも、そのティーダの腕に手を添えじっとガブラスを見据えているユウナも―そしてガブラスと直接向かい合っているプリッシュとヴァンも、誰も何も言葉を出すことが出来ずに黙りこくっている。
短かった答えに付け加えるかのように、静寂を破ってガブラスの言葉は続く―


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